原研ら,スピン流で流体発電現象の発電効率向上

日本原子力研究開発機構(JAEA),お茶の水女子大学,東北大学,理化学研究所,東京大学の研究グループは,電子の自転の流れであるスピン流を介した流体発電現象のμmスケールの微細流路における特性を解明し,微細になるほど発電効率が飛躍的に向上することを発見した(ニュースリリース)。

スピン流を介してさまざまな形態のエネルギーを相互に変換する技術が求められている。一方,スピン流はμmかそれ以下を流れると消滅するため,スピン流を介してエネルギーを変換させるためには,構造の微細化とエネルギー変換効率の向上が求められる。

そこでこの研究では,微細化に適したサイズでの液体運動によるスピン流体発電現象の特性およびそのエネルギー変換効率の解明を目的とした。この現象は起電力としてエネルギーが取り出されるため,変換効率は発電効率として評価できるという。

研究グループは数十~百μmの管径を持つ石英ガラス管に水銀を流し,その水銀の流れからスピン流体発電現象によって発現するスピン流を電気的に測定した。液体運動は管径が細くなるに伴い,流量の大きい乱流領域から小さい層流領域へと遷移する。従って微細な構造の流れは層流が主となり,本研究で用いた流路ではこの層流を実現している。

スピン流体発電現象の核となるのは,液体運動中の微細な渦の分布。渦という回転運動によって電子の自転運動であるスピンが影響を受けることで,渦の分布に沿ってスピンの流れが発現することが,理論的に予言されていた。

特徴的な2種類の液体の流れである乱流と層流は,中間領域を介して連続的に遷移し得るものの,内部の流れの構造は大きく異なる。この研究で重要となる渦は,乱流では管の内壁付近に集中して分布するのに対し,層流では管全体になだらかに分布する。

この点から,層流におけるスピン流体発電現象は乱流とは全く異なる特性を持つこと,および層流では管全体でスピン流が発現し得るため,乱流領域に比べ発電効率の大幅な向上が予測できる。

この研究では流速や管径を変化させ,層流から乱流にまたがる領域で起電力測定を実施した。その結果,予測と整合する実験結果が得られた。層流においては管径が小さく遅い流れほど発電効率が大きくなるという,微細化に適した特長的なスケーリングが実験的に解明された。また,この実験での層流領域では,乱流領域に比べ10万倍に及ぶ効率の向上が確認された。

この研究成果により,スピン流を介した流体発電現象は微細化により特性が大きく向上することが示唆されるとしている。

その他関連ニュース

  • 京大ら,マグノンの回転方向の制御と検出に成功 2024年11月21日
  • 京大ら,THzで超高速スピンスイッチング動作を発見 2024年10月28日
  • 阪大,スピンの向きを70%程度揃える高分子を開発 2024年09月19日
  • DNP,両面採光太陽電池の発電を向上するシート発売 2024年03月07日
  • 京大ら,ダイヤの励起子のスピン軌道相互作用を解明 2024年02月27日
  • 理研,シリコン量子ビットの高精度読み出しを実現 2024年02月14日
  • 広島大ら,電子/スピンを観察する走査型顕微鏡開発 2024年01月12日
  • 東大,スピンホール効果の周波数特性を円偏光で計測 2024年01月05日