東京工業大学,早稲田大学,埼玉大学の研究グループは,植物葉で電位を測定できる極薄な導電性ナノシート電極(ナノシート電極,厚さ約300nm)を開発し,導電性高分子を用いた植物生体電位のライブモニタリングに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
この研究では従来の植物生体電位測定の課題点を克服するため,高分子ナノシートからなる生体電極を用いることでより低侵襲な植物生体電位の測定を実現した。
測定システムの構築にあたり,導電性高分子を用いて皮膚に貼り付けるだけで表面筋電図を計測できる極薄電極「電子ナノ絆創膏」を基盤技術としたナノシート電極を用いて,葉面上での設置位置などを検討した。
ナノシート電極は,剥離基材となるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム,導電性高分子ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)+スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)からなるナノシート層,水溶性ポリビニルアルコール(PVA)からなる支持層の3層で構成されたフィルムで製造されるため,測定対象に合わせて自由に大きさを変更でき,様々な植物を測定できる。
ナノシート電極は特長的な物理接着性と柔軟性から,接着剤などを使用せずに葉面への貼付が可能で,微細な凹凸に密着していることを確認した。比較対照のゲル電極では貼付して14日程度で葉面に変色がみられたのに対し,ナノシート電極の場合では変色は見られず,侵襲度の低さを顕著に示した。
また,研究では測定対象にアシタバを採用し,測定環境中でLEDライトの明暗条件をコントロールすることで光照射時と非照射時における生体電位の差異について確認した。これは光合成などを行う際に通常と違う電位パターンを発生することを示し,生体電位が植物の活動を反映させることを支持する1つの根拠となる。
これまでにも同様の計測は,ヒトの筋電位を計測するためのゲル電極を用いて行われており,研究でもゲル電極と比較したところ,ナノシート電極とゲル電極では遜色ない結果が得られ,ナノシート電極が植物用の生体電極として使用できることを見出した。
ヒトの皮膚にも貼付可能なナノシート電極は,電極サイズを自在に変更できるため,植物葉だけでなく果実本体などへ直接貼付することも理論上可能であると考えられ,生体電位測定の幅を大きく広げることができるという。
今回の研究成果は,農業などの一次産業への応用に向けて,ナノシートの構成分子を変更した環境にやさしいナノシート電極を開発することにより,幅広い分野への活用が期待されるとしてる。