徳島大学,中国 北京航空航天大学,仏リトラル・コート・ド・パール大学の研究グループは,テラヘルツ・コムに基づいたガス分光で高精度性と汎用性を両立する技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
揮発性有機化合物ガスは大気環境へ放出されると公害などの健康被害を引き起こすため,揮発性有機化合物ガスの定性・定量分析法が強く求められているが,これまで迅速かつ高精度に分析する技術は無かった。
テラヘルツ・コムの周波数間隔は,周波数標準器と同精度に保てるため,これをテラヘルツ・スペクトルの周波数目盛りとしてガス吸収線の位置(周波数)を観測することにより,極めて高精度なガス分析が可能になる。
テラヘルツ波は極性ガス分子の回転運動による吸収が現れる周波数領域に位置し,各種の揮発性有機化合物ガスがこの周波数領域で特徴的な吸収スペクトルを示すことから,揮発性有機化合物ガスの分光分析手段として期待されている。
特に,極めて正確で精緻な櫛の歯状スペクトルを持つテラヘルツ・コムを用いた分光法(デュアル・テラヘルツ・コム分光法は,高い分光精度(高確度,高分解能,広帯域)を備えているが,テラヘルツ・コムの発生及び検出のためには周波数安定化制御された特殊なレーザーを2台利用する必要があり,光源部が複雑・高価格であるために汎用性を損ねていた。
一方,デュアル光コムファイバーレーザーは,1台のレーザーで2つの光コムを発生させることが可能である上,周波数安定化制御が不要であるため,光源部の簡素化・低価格化を可能にするが,レーザー非制御による周波数揺らぎのため,デュアル・テラヘルツ・コム分光法の高い分光精度を犠牲にしなければならなかった。
この課題を解決するため,研究グループは,デュアル光コムファイバーレーザーとアダプティブ・サンプリング法を融合したデュアル・テラヘルツ・コム分光装置を開発した。
この分光装置では,デュアル光コムファイバーレーザーの周波数揺らぎを検出し,その揺らぎに基づいてスペクトル波形の歪みを補正することにより,分光精度の低下を防ぐ。
この手法により,高い分光精度と汎用性を兼ね備えたデュアル・テラヘルツ・コム分光法が可能になり,将来的に大気環境汚染のモニタリングに期待できるとしている。