東北大学の研究グループは窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)混晶の半導体材料を用いて,材料の組成を調整することで検出する深紫外線の種類を選ぶことができ,室内照明光に対する深紫外光の検出感度比が105を超える(世界最高水準の波長選択比)深紫外光検出器の開発に成功した(ニュースリリース)。
現状の深紫外光検出器は可視光と近赤外光も検出するシリコンフォトダイオードに深紫外光のみが透過するように設計された光学フィルターを取り付けたものが使われている。
その光学フィルターは近赤外光と可視光だけでなく,深紫外光に対しても減衰が大きいという問題があり,深紫外光の種類ごとに検出できる高感度な検出器はなかった。
深紫外を検出できる材料のひとつとして,光デバイスやパワーデバイスへの応用が期待されているワイドギャップ半導体材料のAlGaNがある。AlGaNは窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)の中間化合物である混晶であり,組成比によってバンドギャップを3.4eVから6.2eVまで連続的に変化させることができ,検出できる光の波長としては深紫外領域を含む200nmから365nmにおいて連続的に選択できる。
研究グループは有機金属気相成長(MOCVD)法によりサファイア基板(C面)上に結晶欠陥を大幅に減少させたAlNバッファ層を形成し,連続して成長させたAlGaNの多層膜に対してNiを電極とするショットキー型の深紫外光検出器を開発した。
サファイア基板の方向から紫外線が入射することで,検出素子である半導体材料自体がフィルターの役割も果たすため,深紫外光のみを検出することができる。そのため,波長応答特性は,ゼロバイア電圧における波長応答度の感度ピークをAlGaNの組成に対応する260nm付近の狭帯域に確認できるだけでなく,室内照明の可視光(波長:630nm)に対する深紫外光(波長:260nm)の検出感度は波長選択比3.4×105と世界最高水準となるという。
この検出器を用いると,屋内照明や自然光のもとで火炎から発生する深紫外光が微弱でも高感度に検出できるので,火災をごく小さい段階から発見できる。従来からある熱検知型火災報知器は感知に周囲環境の温度が上昇するまでの時間が必要だったが,この検出器は離れている場所での火災でもミリ秒の応答速度で検出する。
また,深紫外光の発光デバイスは,実用的な高輝度光源がすでに開発されており,必要な種類の深紫外光のみを高感度に高速モニタリングできる本検出器と組み合わせることにより,深紫外光照射の強度と分布を高い精度で制御できるようになるという。それゆえ,生活の中で深紫外光を安全に使うことができるようになるだけでなく,ウィルスに固有の照射条件による効率的な殺菌も可能になるとしている。