東京大学の研究グループは,一般的な水モデルのシミュレーションと最新のX線散乱実験データの詳細な解析により,水の構造因子には,見かけ上の「一つ目の回折ピーク」の中に,2つのピークが隠れていることを発見した(ニュースリリース)。
研究グループは,水の異常性の構造的起源を探るべく,3種類の一般的な水モデルのシミュレーションと最新のX線散乱実験データの詳細な解析により,水の構造因子には,見かけ上の「一つ目の回折ピーク」の中に,2つのピークが隠れていることを発見した。
隠れたピークの1つは,水の中に形成される正四面体構造に関連した密度波に起因したピークで,もう1つのピークは,より乱れた構造に関係した密度波から生じていることが明らかとなった。
これまで,水の構造が,熱揺らぎの下で,「ある1つの構造の周りに幅広い分布を持つのか」,あるいは,「規則的な構造と乱れた構造といった2種類の構造の動的な混合物であり,その結果2つの構造の存在を反映して2つのピークを持った分布を示すのか」について,これまで実験的に検証可能な水の構造の特徴に関する直接的証拠が存在しなかったため,長年論争が続いてきた。
今回の研究結果は,X線散乱・中性子散乱により直接測定可能な,正四面体構造に起因したピークの存在を示したこと,またその強度が,研究グループが分子レベルの構造指標を用いて独立に求めた液体における正四面体構造の占める割合と比例していることを示した点に大きな意義があるという。
実際,この研究により,水の液体中には,温度低下に伴い,エネルギー的により安定な正四面体構造がより多く形成される直接的な証拠が得られた。これにより,「液体の水は,乱雑な構造と規則的な局所構造が動的に共存した状態である」という二状態モデルに基づく現象論の妥当性が,分子レベルで示されたといえる。
また,水が2つの状態の共存状態であるという事実は,水という物質の条件に依存して2つの液体状態が存在する可能性も示唆する。水の重要な性質の1つとして,水の状態が温度・圧力・イオン濃度などにより大きく変化するという環境適応能があるが,その鍵は,2つの状態の分率という,他の単純な液体にはない自由度を内包している点にあると考えられるという。
この発見は,純粋な水のみならず,電解質溶液,生体内の水などのさまざまな系の水構造の理解にも資すると考えられ,水の基礎的な物理・化学的理解のみならず,化学,生物学,地質学,気象学,さらには応用も含め,水に関連した分野に大きな波及効果があるとしている。