東北大学,スペイン・セビリア大学の研究グループは,リング型と正方型形状を有すスピン干渉デバイスを用いてスピンの干渉効果を理論と実験により詳細に調べた結果,トポロジカル転移磁場がデバイスの幾何学的形状によって制御できることを見出した(ニュースリリース)。
磁場や電場などの外的な擾乱に対して安定に保つことができる電子状態をトポロジカル量子状態と呼ぶ。例えば量子ホール効果や磁気スカーミオンは整数で表されるトポロジカル数を変化させるような大きな外的擾乱を加えない限り安定な状態を保つ。このため,トポロジカル量子状態を用いたエレクトロニクスへの展開に関する研究が最近盛んに行なわれている。
この研究では,リング型と正方型スピン干渉デバイスを用いた。スピン軌道相互作用の強い半導体二次元電子ガスInGaAsを用いたデバイスを作製することにより,電子スピンは運動方向と垂直な方向にスピン軌道相互作用が作る有効な磁場Bsoを感じながら伝搬する。これによりリングを1周する際,獲得するスピンの幾何学的位相を干渉効果によって電気伝導度から測定することが可能となる。
外部から磁場Bxを印加しない場合,電子スピンはスピン軌道相互作用の作る有効磁場Bsoに沿って運動するため,z軸の周りを1回転する。スピン干渉デバイスではこのz軸の周りのスピン回転数がトポロジカル数とスピンの幾何学的位相に対応することを理論的に示すことが可能となる。
z軸の周りを1回転するスピンは幾何学的位相πを獲得する。ここで磁場Bxを印加し,その強さがBx>Bsoとなるともはやz軸の周りの回転ができなくなり,トポロジカル数がゼロとなるとともにスピン幾何学的位相がゼロとなり干渉効果が逆転する。
一方,正方型スピン干渉デバイスの場合,正方形の頂点の部分で有効磁場Bso方向が急激に90°変化するため電子スピンは有効磁場に追従できず,z方向に傾くことになる。このため,外部磁場Bxが十分有効磁場Bsoより弱い場合Bx≪Bsoでも電子スピンはz軸の周りで1回転できず,トポロジカル数をゼロに転移させることが可能となることを理論的に示した。
正方型スピン干渉デバイスでは,リング型スピン干渉デバイスに比べて弱い磁場Bxで干渉パターンが反転していることが観測された。この結果はトポロジカル転移磁場がデバイスの幾何学的形状によって制御できることを示している。
この研究成果は,トポロジカル量子状態を用いたスピントロニクスや量子コンピュータに新たな自由度を提供することになり,トポロジカルエレクトロニクスの分野開拓に大きく貢献するとしている。