東北大学,電気通信研究所の研究グループは,革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)において,世界で初めてSi-CMOS基板上で,応用上必要とされる400℃の熱処理耐性,無磁場で0.35ナノ秒までの高速動作,10年データ保持特性を確保するために十分な熱安定性(E/kBT=70)を有するスピン軌道トルク型磁気トンネル接合素子の作製に成功した(ニュースリリース)。
次の半導体混載メモリの置き換えとして,スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)の置き換えが目標とされている。SRAM代替応用では,混載フラッシュ代替とは異なり,ナノ秒からサブナノ秒オーダーでの動作が求められる。
このような高速領域での動作を得意とする磁気トンネル接合(MTJ)を用いた新しい磁気メモリとして,スピン軌道トルク(SOT)を用いたSOT-MRAMが提案されている。SOT-MRAMでは,MTJ素子を用いた代表的なランダムアクセスメモリであるSTT-MRAMとは異なり,MTJの下部に用意されたチャネル層に電流を流すことで,同チャネル層に隣接しているMTJの中の片方の強磁性体の磁石の方向だけを反転させる。
この方式については,これまでその高速書き込み性能に高い注目が集まり,STT-MRAMの相補的な位置づけでSOT素子単体での性能向上に特化して研究開発が進められてきた。
しかし,半導体混載メモリ代替として本格的に応用するためには,半導体製造の配線工程で必要となる400℃以上の熱処理耐性を有すること,加えて,期待されるような高速性能が得られることをCMOSウエハー上で試作したSOT素子で実証する必要がある。
更には,実際にCMOSトランジスタと一緒にSOT素子を組込んで試作し,メモリセルの性能を実証する必要があった。また,10年のデータ保持を確保するための十分な熱安定性も達成されていなかった。
以上のような背景から,今回,これまで研究グループが開発してきた産業界と互換性のある300mmSiウエハープロセス装置を用いた集積プロセス技術を基盤としてSOT-MRAM作製で必要となる集積化技術を開発し,CMOS基板上に作製した400℃熱処理耐性を有するSOT素子において,10年のデータ保持を確保するために十分な高熱安定性(E/kBT=70)と無磁場で0.35ナノ秒の高速動作を実証すると共に,実際にトランジスタと混載したSOT素子の動作実証に成功した。
研究グループはこの結果によって,低消費電力性に優れ,且つ,高性能なSOT素子を用いたMRAMの実用化が現実的なものになったとしている。