東京工業大学,産業技術総合研究所(KISTEC)の研究グループは,マンガン・銅・セリウム・酸素からなる超高圧相の酸化物(CeCu3Mn4O12)を高品質な薄膜として合成することに成功した(ニュースリリース)。
四重ペロブスカイト酸化物AA’3B4O12は,巨大常誘電性や電荷移動,負熱膨張特性や触媒機能,ハーフメタル特性といった興味深い物性が相次いで発見されている物質群。
非常に密な構造をもつため,高圧合成法による合成と相性が良く,近年,急速に研究が進んでいる。しかし,高圧合成法はコストが高く,また一回の合成で得られる量が限られているため,上記の機能を実用化するためには,より簡便な合成方法で高品質な材料を得る必要がある。
研究グループは室温フェリ磁性体であるマンガン・銅・セリウム・酸素からなる四重ペロブスカイト型酸化物(CeCu3Mn4O12)を,パルスレーザー堆積法を用い,薄膜形態にて作製した。基板の種類や結晶成長の温度などのパラメータを最適化した結果,ペロブスカイト酸化物YAlO3(アルミン酸イットリウム)基板上において高品質な薄膜が得られた。
また,得られた薄膜の磁気異方性を調べたところ,薄膜面内で最も引っ張られている方向に強い一軸の磁気異方性が発現していることを発見した。
加えて,第一原理計算によって,歪みを受けた薄膜と同じCeCu3Mn4O12結晶を再現し,その磁気異方性エネルギーを計算したところ,結晶格子が伸びた方向に磁化容易軸が向いたときにエネルギー的に有利であり,実験と合致する結果が得られた。
これらの結果から,CeCu3Mn4O12薄膜に圧縮歪みを印加すれば,薄膜に垂直な方向が最も結晶方向が引き伸ばされ,垂直磁化膜となることが予想されたという。
圧縮歪みを受けたCeCu3Mn4O12薄膜を実現するためには,CeCu3Mn4O12よりも結晶格子が小さい物質を下地にする必要があるが,適する基板が存在しない。
そこで,薄膜と基板の間に,より面内の格子定数が小さく,ペロブスカイトと類似した構造をもつYCaAlO4(アルミン酸イットリウム・カルシウム)をバッファ層として挿入する工夫を施すことで,薄膜に印加する歪みを引張りから圧縮に切り替えることに成功した。
この薄膜で磁気特性を調べたところ,面内方向の一軸磁気異方性が消失すると同時に面直方向の磁気異方性が強くなり,垂直磁化膜が実現していることが確かめられた。
これらの研究により,巨大常誘電性や電荷移動,負熱膨張特性や触媒機能,ハーフメタル特性を持つ類似物質の大面積合成が可能となると期待されるという。また,格子定数の小さい化合物の層を挿入することで垂直磁化を実現する手法も,他の強磁性薄膜に応用可能としている。