大阪大学,東京大学,村田製作所の研究グループは,柔らかいプラスチック基板(フレキシブル基板)上に形成したトンネル磁気抵抗素子が,硬い半導体基板上に形成した素子に匹敵する性能をもつことを実証した(ニュースリリース)。
研究グループは,柔らかいフレキシブル基板上のスピン素子を用いた新たな産業応用展開を推し進めている。スピン素子にはメモリ機能や磁界センシング機能があるが,これに柔らかさが付与されることで,IoT産業上きわめて重要なメカニカル動作の検知(生体や構造物表面のモーションやひずみ検知など)も機能として加わる。
これにより,磁気記録技術の高度化が本題であった従来のスピントロニクスが辿るルートとは一線を画す産業応用展開の新ルートが拓けるという。
この研究で用いたトンネル磁気抵抗素子は,ハードディスクの読み取りヘッドや固体磁気メモリで広く用いられているCoFeB/MgO/CoFeBの積層構造であり,CoFeBが磁性体,MgOはトンネル障壁である。抵抗が高い(低い)磁界領域では,磁気トンネル接合内の2層のCoFeB磁性層の磁化の向きが互いに反平行(平行)になっている。
素子に高温処理(アニール)を施すことにより,抵抗変化率が大きく増大する。今回,ポリイミド製の基板を用いることで,500℃までの高温アニールに耐えうる素子を形成することに成功した。
実験では450℃付近で抵抗変化率が200%近い値(抵抗が3倍程度変化することに相当)をとり,フレキシブル基板上の素子は硬いSi基板上に形成した素子と同等以上の性能を示していることが分かった。
なお,例えば一度高温でアニールを施した素子は,それ以下の温度までであれば性能を維持できる耐熱性を持つという。透過型電子顕微鏡を用いた詳しい調査により,高温アニールがMgO層の結晶化を促進し,抵抗変化率増大をもたらしていることが裏付けられた。
同素子を引っ張っては元に戻しということを1000回繰り返しても,素子の抵抗や200%程度の抵抗変化率は全く変化せず,高い耐久性が示された。
この結果は今後,ウェアラブルデバイスへの集積磁気メモリ混載や,フレキシブルな高感度磁界センサーとしての実用化,基板を引き伸ばすことで可逆的に変化する磁気的性質が大きな抵抗変化をもたらす現象を利用したメカニカルセンサーや,ウェアラブル生体モーションセンサーの実用化など,スピン素子の新たな産業応用展開を切り拓くことが期待できるとしている。