東北大学の研究グループは,黒体放射を利用した2000℃以上の温度でも計測可能な超高温熱分析装置を開発し,モシブチック合金の凝固過程の熱分析に成功した。また,溶融モシブチック合金の複雑な凝固過程を解明した(ニュースリリース)。
ニッケル基超合金と同程度の密度(比重)を有した超高温材料であるモシブチック合金(モリブデンを主成分とし,シリコン,ボロン,チタン,炭素などを含む合金)は,破壊靭性や高温クリープ強度に優れていることから,無冷却の次世代高圧タービンブレードへの応用が期待されている。
しかし,モシブチック合金ではベースとなるモリブデンが融点2600℃を超える高融点金属のため,状態図の作成が困難だった。状態図は,温度や合金組成に依存して変化する液相や固相に関する情報を与えるもので,合金の設計や組織制御には欠かせない。
相変態の温度を評価するのに有効な手段として熱分析法があるが,従来の方法では温度が2000℃に近づくと実験的な困難さが生じる。そこで研究では2000℃以上でも熱分析が可能な「黒体放射を利用した新しい超高温熱分析装置」を開発した。
この熱分析装置では,試料を充填したるつぼを誘導加熱により加熱・冷却し,るつぼに設けた黒体孔の放射輝度を非接触な放射温度計により測定して試料温度を求め,得られた熱分析曲線から相変態温度を決定する。
高温の温度定点として推奨されている銅の融点(1084.62℃)や金属‐炭素共晶合金の共晶点(ニッケル‐炭素合金:1329℃,ルテニウム‐炭素合金:1953℃)を使って放射温度計の温度を校正することで,1953℃以下では黒体放射を確認し,±0.4%の高精度で温度測定ができることが分かった。1953℃以上ではそのまま黒体放射が保たれると仮定して2000℃以上まで温度を測定したという。
この熱分析装置を用いて1900℃以上で溶融するといわれているモシブチック合金の凝固過程の固相の晶出に伴う温度変化の評価と,電磁浮遊法によってるつぼ無しで溶融したモシブチック合金に対して,冷却過程での凝固の様子をその場観察を行なった。
その結果,溶融合金が冷却する過程で,固相の晶出に起因する多段階の復熱現象を観察し,複雑な凝固過程とモシブチック合金の高温状態図を世界で初めて提案した。
この成果は,超高温モシブチック合金の組織制御における熱処理や加工プロセス条件の検討に対して有用な知見を与え,実用時に問題となる種々の材料特性の向上につながる。さらに今後,超効率エネルギー変換や超高温場制御などの科学技術の発展にも寄与するものだとしている。