岡山大ら,光合成での酸素形成過程を解明

岡山大学,理化学研究所の研究グループは,光化学系Ⅱの「ゆがんだイス」の形をした触媒が酸素分子を形成する直前の状態の立体構造を決定した(ニュースリリース)。

光合成は,光化学系Ⅱと呼ばれる,約20個のタンパク質とクロロフィル,カロテノイドなどの集光色素からなる複合体が光エネルギーを吸収して効率よく利用し,水分子から電子と水素イオンを取り出して酸素分子を形成する反応から始まる。

これまでに研究グループは,光化学系Ⅱの結晶を高い品質で作製することに成功し,水分子を分解する触媒部分の正体はマンガンクラスターで「ゆがんだイス」の形をしていることを明らかにしている。しかし,触媒に取り込まれた水分子の化学的性質を明らかにできなかったため,酸素が形成される仕組みには不明な点が残されていた。

研究グループは,「固定ターゲット無損傷タンパク質結晶構造解析法」を微小なサイズの光化学系Ⅱの結晶に適用した。

光化学系Ⅱの結晶に室温でレーザー閃光を1~2発照射すると,水を分解する反応サイクルをS2~S3状態と呼ばれる「途中」の状態に進めることができる。これら「途中」の状態を急速に凍結することで固定し,フェムト秒のX線パルスを照射してX線の損傷を受けていない状態でX線回折データを取得した。

この解析では2.15 Åの高い解像度で解析しただけでなく,触媒の周期的な5つの中間状態のうち3つを捉えることに成功した。解析では,量子化学計算の結果を用いることで,従来よりも正確に触媒の立体構造を決定することができた。その結果,酸素分子の形成に必要と考えられる2つの酸素原子を触媒中に発見し,これらの化学的な性質を明らかにすることができた。

これにより,反応の開始時(S1状態)には触媒部分の中間にあるO5と呼ばれる酸素原子が,次のステップ(S2状態)で少し移動してスペースをつくり,さらにその次のステップ(S3状態)でO6と呼ばれる酸素原子が取り込まれる仕組みが見いだされた。

さらに触媒部分の周辺で起きたタンパク質の立体構造の変化に注目したところ,反応に必要な水分子を取り込むための経路や反応で生じた水素イオンを排出するための仕組みが明らかになった。

研究グループは,今回明らかになった酸素分子を形成する仕組みは,光エネルギーを利用して水から電子と水素イオンを取り出して有用な化学物質を作り出す「人工光合成」の技術開発に重要な知見を与えることが期待されるとしている。

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