近畿大学は,コンピューターを用いた厳密な数値シミュレーションによって「近藤効果」を再現することに成功した(ニュースリリース)。
「近藤効果」とは,通常は温度低下に伴って一方的に下がる金属の電気抵抗が,ある一定の温度以下で逆に上昇するという現象。現象が起こる理由は,電気伝導を担う電子と不純物電子の間に働く強いスピン交換相互作用によって引き起こされる現象であることが理論的に示されている。
近藤効果が起こる金属のように,強く相互作用する数多くの量子力学的な粒子(例えば電子)から構成される系は強相関量子多体系と呼ばれる。そのような系は非常に複雑で,一般的に適用可能で厳密な理論手法は現在のところ存在しない。
そのため,近藤効果のような古くから知られている現象ですら,その有限温度の動的性質に関する厳密な数値シミュレーションがなされないままだった。
研究では,空間一次元における有限温度の量子多体系を数値的に厳密にシミュレーションする手法を劇的に改良し,近藤効果を再現することに初めて成功した。具体的には,行列積状態で表した最小量子もつれを持つ典型的な熱状態アルゴリズムの計算速度を大幅に向上した。
研究で開発した手法は,空間一次元の量子多体系に幅広く適用可能であるため,今後の強相関量子多体系の研究に大きく貢献することになると考えられるという。
例えば,銅酸化物高温超伝導体と類似する物質の有限温度相図を描くことで,物理学最大の謎の1つと言われる高温超伝導の発現機構の解明に新たな一石を投じる可能性があるとする。
また,今回の研究の手法で電気抵抗を計算する手順が,光格子中の冷却気体を用いたアナログ量子シミュレーターでも同様に利用できるという意味で,近年急速に進展している量子シミュレーション研究にも有用であるとしている。