愛媛大学の研究グループは,農業生産の現場において作物の二酸化炭素の吸収量から光合成の変化を計測できるシステム「Photo[synthesis] Cell(フォトセル)」を世界に先駆けて開発し,商品化した(ニュースリリース)。
太陽光型植物工場は,太陽エネルギーを最大限に生かしながら,効率的に作物生産を行なう。気温,CO2濃度などさまざまな要素が制御が,栽培作物の光合成の最大化を目的として行なわれている。
従来の光合成の計測は,大学や研究機関が有する非常に高価な専用装置を用いて,植物の葉の1枚1枚を対象とした計測を行なっていたため,気温・湿度・日射・二酸化炭素が変化する農業生産現場での,植物個体全体のリアルタイムの光合成とその変化の様子を把握することは困難だった。
研究グループは,この点を克服するため,農業生産現場で植物個体全体の光合成を計測する技術を開発した。この技術は,太陽光型植物工場で栽培されている植物を底面が開放された透明なフィルム(チャンバ)で覆い,チャンバの上部に設置したファンにより,チャンバ内に上向きの気流を生じさせ,チャンバから流出する空気のCO2濃度差を計測することで,トマト個体群の光合成速度を算出するもの。この技術により,11カ月間トマトの連続計測を可能にしたという。
このシーズ技術を基に,愛媛大学と同大発のベンチャー「PLANT DATA」は,植物の光合成の変化をリアルタイムに計測できるシステムに関する研究を実施し,光合成蒸散リアルタイム計測システムとして商品化に成功した。
このシステムは,四国総合研究所の環境情報のセンシング・IoT技術,PLANT DATAのクラウド上での生体情報計測とユーザビリティを考慮したUI設計により,誰でも簡単に作物の光合成の変化を把握できる。
このシステムの開発により,一般の農家も光合成の情報を入手することができるようになり,光合成を最大化させるための栽培管理に活用できる。また,植物からの水の放出量(蒸散量)も同時に計測するので,水やりのタイミングなどの最適化も図ることができるという。
なおこのシステムの販売は,協和が担当し,「Photo[synthesis] Cell」の名称で2019年10月1日に発売する。2021年3月末までに50セットの販売を計画し,研究施設等では短期的な需要もあることから,レンタル対応も検討中としている。
研究グループは今回の研究は,AI農業の推進に不可欠なビッグデータを創出する新たなシステムとして農業の生産現場に普及することが期待できるとしている。