東大ら,非磁性/強磁性半導体に新しい磁気抵抗効果を発見

東京大学と福島工業高等専門学校の研究グループは,すべて半導体でできた非磁性半導体/強磁性半導体からなる二層ヘテロ接合を作製し,新しい電子伝導現象を発見した(ニュースリリース)。

近年,IoTや人工知能の実現にますます注目が集まり,その演算や情報の記憶を担うトランジスタを代表とする半導体デバイスの性能向上を目指した研究は重要度が高まっているが,情報を操作したり記憶しておくために必要な電力が大きいことが問題となっている。

これに対し研究グループは,高速で動作するトランジスタ,LED,レーザーなどを構成する半導体材料に,磁性元素(Fe,Mnなど)を添加することにより,半導体と磁石の性質を合わせ持つ「強磁性半導体」を作製し,既存のエレクトロニクスと相性のよい強磁性半導体を用いたスピントロニクスにより,磁化の向きによるメモリの実現を目指している。

具体的に磁化の向きを電気的に読み出すには,多様な物質,および構造の磁気抵抗効果を調べていく必要がある。しかしこれらの磁気抵抗効果では,大きな抵抗変化が得られるが,磁性層が多数必要で複雑な構造を要するため,デバイス加工が困難。一方,非磁性体/強磁性体からなる二層ヘテロ接合を用いた先行研究では,構造は単純であるものの,電流と磁性の結合が弱いため,磁気抵抗変化が非常に小さくおよそ0.1%程度しかないという問題があった。

今回研究グループは,非磁性半導体であるヒ化インジウム(InAs)薄膜(厚さ15nm)とアンチモン化ガリウムに鉄を添加した強磁性半導体GaFeSbの薄膜(15nm)を積層した二層のヘテロ接合を作製した。磁場を印加したときの電気抵抗の変化(磁気抵抗効果)は80%に達し,これは金属や絶縁体を用いた同様の二層ヘテロ接合の磁気抵抗に比べて約800倍大きな値となる。

この磁気抵抗効果は,磁場の向きを変えた時の振る舞い(磁場方向についての対称性)が,これまでに知られているいかなる磁気抵抗効果とも異なり,新しい磁気抵抗効果と言えるという。

さらに,このヘテロ接合をトランジスタに加工することで,外部からの電圧によってInAs薄膜中の電子状態を変化させることが可能になる。InAsは非磁性の半導体だが,電圧を印加することで隣接するGaFeSb薄膜の磁気的な性質がInAsに付与され,磁気抵抗の大きさがゲート電圧により変調できること,すなわち,電流と磁性の結合を電気的手段によって制御できることが明らかになった。

研究グループは今回の研究により,強磁性半導体を用いた次世代スピントロニクス・デバイスの実現に向けて新たな道筋を示したとしている。

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