山口大学の研究グループは,これまで毒性や希少性のある金属を用いることが主流だった強誘電体を,ヘキサメチレンテトラミンという化合物に,酸を作用させることで合成できることを世界に先駆けて見出した(ニュースリリース)。
ヘキサメチレンテトラミンは,C,H,Nの3つの元素からなる有機分子。タブレット型固形燃料の成分でもあり,医薬品(尿路消毒剤)の有効成分として知られている。廉価で低毒性な化合物な上,空気中の窒素を原料としたアンモニアと,天然ガスやバイオマスから得られるメタノールをもとに合成できる。これまで,酸性化で分解しやすいなどの理由で材料開発が困難だった。
強誘電性は固体中の自発分極が外部電場に応じて反転する現象で,メモリーや蓄電材料,熱センサーから医療機器などに幅広く用いられている,コンデンサー・焦電体・圧電素子に必要な材料。現在はチタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛など,ABX3型ペロブスカイト酸化物が主流となっている。希少・毒性な金属を含むことから代替化が世界中で求められているが,有効な材料・手段はこれまで見つかっていなかった。
今回,研究グループが見出したヘキサメチレンテトラミンを用いた「強誘電体」材料は,プロトン化したヘキサメチレンテトラミン,アンモニウムイオンと臭化物イオンからなる塩。
これをX線を使って固体中の分子やイオンの配列を調べた結果,化合物の構造の決定に成功し,ヘキサメチレンテトラミンを含むペロブスカイト型の構造であることがわかった。金属イオンを全く含まないペロブスカイト型構造は珍しい例という。自発分極の温度依存性や外部電場応答などを調べたところ,自発分極が反転する様子を捉えることに成功し,強誘電体であることを確認した。
理論に基づいた試算からは,既存の強誘電体に匹敵する性能が見込めたが,現状においてまだ十分性能を発揮しているとはいえないという。研究グループは,これまでのペロブスカイト型強誘電体に関する知見や技術を応用しながら,実用化に向けての性能強化も可能と見込んでいる。