東大,スマホによる小型蛍光顕微鏡を開発

東京大学の研究グループは,高感度で定量性の高い1分子デジタル計測法を,スマートフォンで簡便にできる小型蛍光顕微鏡を開発した(ニュースリリース)。

近年,感度よく迅速にバイオマーカーである分子を検出できる方法として,1分子レベルで標的分子を検出する1分子デジタル計測手法が注目されている。これは,数10万個のマイクロメートルサイズの微小液滴に標的となるバイオマーカーである分子を確率的に1個ずつ閉じ込め,分子に起因する信号を2値化して,「1」の信号を発する液滴の数から標的分子を定量・検出する手法。

デジタル計測を行なうためには,マイクロメートルサイズの液滴を観察するための対物レンズ,蛍光を観察するための励起光源,励起光や背景光を除去するためフィルター,高感度なCMOSカメラが必要で大型な蛍光顕微鏡を用いており,臨床現場即時検査への実用化のためには,コンパクトな計測系の開発が不可欠だった。

研究グループが開発したスマートフォンを検出器とした持ち運び可能な小型蛍光顕微鏡のプラットフォームは,23cmx10cmx7cmと小型で簡単に持ち運ぶことが可能。

今回の研究では光学系を小型化するために,微小液滴のアレイが並んでいるデバイスの土台であるガラス基板を導波路とした全反射照明系を使用した。全反射照明ではガラス内を全反射させることによって反射界面に生じるエバネッセント光を励起光として用いる。

エバネッセント光は界面から100nm程度の限定した領域しか届かないため,安価なフィルターでも十分に励起光に起因した背景光を取り除くことが可能となる。

研究ではマイクロデバイスの端を黒いゴムで挟み込み,LED光をガラス端から入れることによって,全反射を引き起こさない角度の励起光を妨げながらエバネッセント場を生じさせ,大型なCMOSカメラの代わりにスマートフォンのCMOSカメラを蛍光検出器として採用した。

この検出器を用いて,酵素(ALP)を用いたデジタル酵素アッセイに成功し,さらに1粒子のインフルエンザを検出するデジタルインフルエンザ計測にも成功した。従来の蛍光顕微鏡に比べて感度は劣るものの,病院で使用されるイムノクロマト法によるインフルエンザ検出キットよりも100倍も高い感度を示したとする。

また実際のインフルエンザ患者のうがい液からのウイルス検出もできたという。研究グループは,今回の研究で開発された小型蛍光顕微鏡を使用することで,高感度なデジタル計測を場所問わず実施できるようになり,早期の診断が可能になるとしている。

キーワード:

関連記事

  • NICT、蛍光顕微鏡の観察精度を高める技術を開発 生きた細胞の内部構造をより鮮明に観測

    情報通信研究機構(NICT)、京都大学、宇都宮大学は、バイオ研究の基盤技術である蛍光顕微鏡による観察精度を高める技術を開発した(ニュースリリース)。 センシング技術の中でも、蛍光顕微鏡のような可視化技術は情報量が多く、広…

    2026.03.18
  • 東大、細胞内の構造と微粒子の動きを同時観察する顕微鏡を開発

    東京大学の研究グループは、前方散乱光と後方散乱光を同時に定量する「双方向定量散乱顕微鏡」を開発した(ニュースリリース)。 ラベルフリー顕微鏡として広く用いられる定量位相顕微鏡(QPM)は、試料の屈折率分布に起因する前方散…

    2025.11.28
  • 筑波大,神経細胞の構造を10倍の精度で3次元計測

    筑波大学の研究グループは,神経細胞の微細構造を高速かつ高精度に3次元計測する技術を開発した(ニュースリリース)。 脳は一つの神経細胞,またはシナプス結合を基本単位として構成され,それらの形態や構成要素の変化が情報処理の基…

    2025.09.17
  • 高知大ら,生体に適用可能な細胞膜プローブを開発

    高知大学と愛媛大学は,新しい蛍光性細胞膜プローブ「dSQ12AQ」を開発した(ニュースリリース)。 細胞の形や動きを観察することは,がんの転移や免疫応答,幹細胞の分化などの理解に重要。そのために使われる蛍光イメージングで…

    2025.08.28
  • 阪大ら,時間決定型クライオ光学顕微鏡法を開発

    大阪大学と京都府立医科大学は,光学顕微鏡で観察中の細胞を,任意のタイミングかつミリ秒レベルの時間精度で凍結固定し,そのまま詳細に観察できる技術「時間決定型クライオ光学顕微鏡法」の開発に成功した(ニュースリリース)。 細胞…

    2025.08.27

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア