東邦大ら,地球の酸素濃度と光合成細菌の関連を解明

東邦大学,米ジョージア工科大学,カナダのブリティッシュコロンビア大学は,酸素発生型光合成生物の出現後も長期にわたって大気中の酸素(O2)濃度が低く保たれていたことを説明する新たなメカニズムを提案した(ニュースリリース)。

大気中の酸素(O2)濃度が現在のレベルに達したのはおよそ4億5千万年前(古生代オルドビス紀~シルル紀)だが,なぜ地球大気の富酸素化に20億年以上もの時間を要したのか,その理由はよくわかっていなかった。

今回,研究グループは,鉄(Fe2+)を利用する非酸素発生型光合成生物(鉄酸化光合成細菌)に着目し,それらの活動によって酸素発生型光合成生物が利用できる栄養塩量が著しく抑制されてしまう可能性を検討した。

鉄酸化光合成細菌は,現在の地球上でも嫌気的な湖などに生息している。この細菌は低光量条件に良く適応していることが知られ,嫌気的な真光層(海洋などにおいて光合成を行なうのに十分な太陽光が届く水深までの層を指す)の深部で活動することができる。

研究グループは,鉄酸化光合成細菌による酸素発生型光合成生物への影響を調べるため,生育実験-遺伝子解析-数値モデルを利用した一連の研究を行なった。その結果,真光層深部に生息する鉄酸化光合成細菌が深層から流入する栄養塩を消費することで,真光層上部に生息する酸素発生型光合成生物が栄養塩不足に陥ることがわかった。

特に,深層水からの鉄(Fe2+)供給率がリン(PO43-)よりも相対的に大きい場合には,鉄酸化光合成細菌によってほぼすべてのリンが消費されてしまい,酸素発生型光合成生物の活動が著しく抑制されることが明らかとなった。

研究グループは,地球表層環境での酸素収支をシミュレート可能な物質循環モデルに,上記結果で得られた知見を導入することで,光合成生物間の競合と大気中酸素濃度の関係性を調べた。その結果,原生代や太古代に想定される深層水組成を考えた場合,地質記録と整合的な低い大気中酸素濃度が説明できたという。  

研究グループはこれらの研究結果は,なぜ地球大気の富酸素化に長い時間を要したのかについて新しい解釈を与えるもので,生命と地球環境の共進化の理解に近づく重要な成果としている。

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