筑波大学の研究グループは,太陽光を用いた含水バイオマス濃縮技術と純水製造を同時に実現する蒸発促進材料を開発した(ニュースリリース)。
熱に弱いバイオマスから水分を除去し濃縮する場合,凍結乾燥法や遠心分離法などが使われるが,その際,膨大な手間と大量の電気エネルギーが必要となっていた。
開発した階層構造を持つグラフェンは,100-300µm径のマクロな多孔質構造を持つグラフェンの表面に100-200nm径のミクロな多孔質構造を持つグラフェンを組み合わせたもの。
まず,発泡ニッケルの上にニッケルナノ粒子を担持した後,化学気相蒸着法を用いて,それらニッケルの表面に窒素を化学ドープしたグラフェンを成長させ作製。その後,塩酸でニッケルを除去することで,階層構造を持つグラフェンを単離した。光吸収特性を調べると,透過率が0%で反射率が5.5-8.0%であり,太陽光の95%程度を吸収することが明らかになった。
次に,このような階層構造を持つグラフェンを,蒸発促進材料として2.0重量%の藻類含水バイオマスの表面に乗せ,1m2当たり1.0kWの疑似太陽光を照射して水の蒸発試験を行なったところ,階層構造を持つグラフェンによる1時間当たりの水の蒸発量は1.54kg/m2であることがわかった。
水だけの場合は1時間当たり0.39kg/m2,マクロな多孔質構造の場合は1時間当たり1.22kg/m2であることから,階層構造を持つグラフェンによる水の蒸発能力は著しく高いことがわかった。さらに,一般的な水質検査法で蒸発した水を調べたところ,蒸留水レベルの純度が得られ,農業用水や工業用水には問題なく使用できることが確認された。
今回研究グループが開発した階層構造を持つグラフェンは,これまで凍結乾燥や遠心分離を行なっていたバイオマス分野への応用が期待できるという。また,この技術を用いれば,有用なバイオ資源の効率的生産を促しつつ,純水製造も可能となるため,海水や含水バイオマスなど水源を選ばず,幅広い用途・応用展開が考えられるとしている。