宮大ら,燃料電池のイオン移動をテラヘルツで観測

宮崎大学,大阪大学,パナソニックは,テラヘルツ周波数帯の電磁波を用いて固体酸化物形燃料電池中のイオンが移動する瞬間の観測に成功した(ニュースリリース)。

固体酸化物形燃料電池の電解質中において,電荷担体となる酸素イオンは10兆分の1秒の時間でイオン移動の試行を繰り返した後に酸素空孔に移動するが,移動直前にはその試行運動が遅くなることが知られている。

そこで,研究グループは近年大容量短距離無線通信や非接触非破壊検査技術として注目されているテラヘルツ周波数帯の電磁波を用いることで,この運動を捉えることに成功した。

テラヘルツは物質分析,特に半導体,超伝導体中の電子伝導や誘電体のイオンの運動を,0.1-10兆分の1秒(10-13-10-11秒)の時間スケールで調べる道具として広く用いられている。

今回の実証実験では最も典型的な固体酸化物電解質の1つである安定化ジルコニアに注目し,異なるイオンを添加したものにこの手法を適用し,解析を行なった。一般に電気的測定で得られた伝導度はイオンの遠距離伝搬のしやすさを表している。これには母結晶のみならず添加原子も寄与するため,強い温度依存性を示す。

一方で,テラヘルツ電磁波で評価した伝導度は酸素イオンの隣接する空乏への移動のしやすさのみを反映するため,それほど大きな温度依存性を示さない。この温度依存性の測定を異なる添加元素の安定化ジルコニアで行ない,イオン移動に必要なエネルギー(活性化エネルギー)を評価した。

電気測定では添加元素のイオン半径が母結晶中のジルコニウムZrと同じ時に活性化エネルギーが最小となる。しかしテラヘルツ電磁波で評価した活性化エネルギーは添加元素のイオン半径と共に減少しており,電気的測定で得られた結果とは異なった。

一般に母結晶は大きなイオン半径を持つ元素を添加すると結晶としての有効格子定数が増加するので,ジルコニウム原子間のポテンシャルの鞍点のエネルギーが下がることでイオンが移動しやすくなる。したがってテラヘルツ電磁波で決定された活性化エネルギーは酸素イオン空孔の物質固有の移動エネルギーを反映しており,電気的測定では得られない新しい固体電解質の特徴を反映した情報が得られると結論づけた。

研究グループは,このような固体電解質のテラヘルツ電磁波による評価は,燃料電池の高性能化に不可欠な固体電解質探索における新たな指標として大いに期待できるとしている。

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