東北大学の研究グループは,スピン移行トルク型MTJ(磁気トンネル接合素子)とSi-CMOS技術を組み合わせた集積回路技術を用いて,高性能と超低消費電力を両立する不揮発マイコン(マイクロコントローラーユニット:MCU)を世界で初めて実証した(ニュースリリース)。
IoT技術による分散型システムの社会実装においては,エナジーハーベスティングによって駆動する超低消費電力性と,人工知能(AI)などの発展に伴うIoTシステムの高機能化に応える高性能性を両立したMCUの開発が急務となっているが,これまでの開発された集積回路は,低消費電力性の達成を主眼においており処理性能は十分でなかった。今回,研究グループは,IoTセンサーノード応用において最大動作周波数200MHzで平均消費電力50µW以下の動作を可能とするMCUの開発に成功した。
集積回路におけるリーク電流に伴う待機電力を削減するための技術として,非動作部の電力供給を停止するパワーゲーティング技術が知られている。しかし,Si-CMOS技術のみを用いた従来のMCUは,搭載されるメモリーが揮発性であるため、パワーゲーティング技術を適用するためには内部情報の退避・復帰動作を伴う必要があり,その効果は限定的となっていた。
この問題に対し,このMCUは,搭載される全ての演算部をスピントロニクス素子技術によって不揮発化し,パワーゲーティング技術を細かい粒度で適用することによって無駄な消費電力を排除するとともに,センサーノード応用におけるさまざまな信号処理を高速に実行するための再構成型演算モジュール,および,演算部とメモリーのデータ転送ボトルネックを緩和することでシステム全体の高速化を可能とするメモリーコントローラーを組み込むことで,超低消費電力性と高速動作性を実現した。
センサーノード応用における一般的な間欠動作間隔を想定した性能評価により,平均消費電力47.14µWによる動作が可能であることを実証し,これまでに比べて,2倍以上の演算性能の向上と2桁以下の低消費電力化を実現した。これは,既存のシリコンテクノロジーが抱えていた演算性能と低消費電力のトレードオフを2桁以上のインパクトで解決したものとする。
さらに,実証した高性能・超低消費電力マイコンは,センサーノードで必要とされる演算性能を維持しながら,エナジーハーベスティング(バッテリーフリー)での駆動も期待されるという。この技術は,ICT社会基盤のパラダイムシフトをもたらし,Society5.0を実現するための基盤技術として期待できるとしている。