理化学研究所(理研),東京大学らは,中性子過剰な銅同位体75Cu(陽子数29,中性子数46)原子核の励起状態の磁気モーメント測定に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
銅同位体は,安定な65Cu(中性子数36)から中性子の数を増やしていくと,基底状態の性質が75Cuで突然変化することが知られている。しかし,この変化は,原子核の殻構造が中性子数の増減に伴って変化していく殻進化の効果なのか,原子核全体の形の変形による効果なのか,よくわかっていなかった。この問題を解く鍵は,75Cuの内部構造を反映する励起状態の磁気モーメントにあるが,75Cuの励起状態の半減期は150nsと短いために,これまで測定することは不可能だった。
研究グループは,今回の75Cu磁気モーメント測定実験で,2段階目の反応(75Cuの生成反応)を究極的に単純化することで,特定の角運動量-スピン間対応の条件を満たせば,さらに大きなスピン整列度を生成できると考えた。この新たな機構を採用した実験を「RIビームファクトリー(RIBF)」の超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)ビームラインで行なったところ,75CuのRIビームに対して30%という非常に高いスピン整列度を実現した。
今回,研究グループは,高効率で短時間の測定を実現するために,独自に開発した超高速スピン制御技術を利用して,理論極限に近いスピン整列度(30%)の75Cuビームを生成し,その磁気モーメントを測定した。
そして,測定データを,スーパーコンピューター「京」による理論解析と比べたところ,75Cuは変形したコアの周りを陽子が周回している構造であることが分かった。これにより,中性子過剰なCu同位体に対して,変形していながらも殻進化が起こるという新たな描像を提示した。
宇宙元素合成過程においては,人工的に生成可能な原子核を超えてさらに中性子過剰なエキゾチック核が関わっていると予想されている。そのようなエキゾチック核がどのような構造をとり,どのように元素合成過程が進んでいくのかを解明するためには,精度の高い理論的予言能力が必要となる。研究グループは今後,殻進化と変形の競合を取り入れたエキゾチック核の究極の構造モデルを確立することで,この宇宙における元素合成過程の解明に役立つとしている。