東北大学,名古屋大学,京都大学は共同で,酸素ガスを吸脱着させることで,磁化のON-OFFが可能な新たな多孔性分子磁石の開発に成功した(ニュースリリース)。
今回研究グループは,電子供与性分子として振る舞うカルボン酸架橋水車型ルテニウム二核 (II,II) 金属錯体と,電子受容分子として振る舞うTCNQ(7,7,8,8-tetracyano-p-quinodimethane)誘導体からなる層状分子磁石を開発した。
この磁石は層状構造により,その層の間にガスなどの小分子を出し入れできるのが特長である分子性多孔性材料の一種。研究では,この磁石分子に酸素が吸着すると磁化が消失,酸素を取り除くと回復することを確認し,酸素吸脱着による磁化のON-OFFスイッチが可能であることを証明した。この磁性体から反強磁性体への磁気相変化(磁化の ON–OFF 制御)は,酸素吸脱着後1分以内に生じ,極めて敏感な反応だとする。
「多孔性磁石」は,従来からよく知られた電場・磁場・光・圧力などの物理的な刺激とは異なり,“分子吸脱着”という化学的な刺激により駆動する材料。化学物質の性質を磁化という物理量に換える,「化学―物理変換」を可能にする材料と言い換えることもできる。
今回の現象は,磁石の性質を持つ酸素分子が磁石層間に吸着されることで層間の磁気相互作用を媒介し,新たな磁気秩序(反強磁性磁気秩序)が誘起されて生じたもの。すなわち,この材料は酸素の持つ電子スピンを感知できる新しい多孔性磁石となるという。
吸着酸素の持つ電子スピンを利用した材料物性の制御はこれまでに例がなく,研究グループでは,新しい磁気秩序機構に基づく分子デバイス創製など,イノベーション創出の鍵になるとしている。