電気通信大学と東京大学,日本原子力研究開発機構は,磁気メモリの高性能化に不可欠である,電圧による磁壁移動の高速化に成功した(ニュースリリース)。
高度情報化社会を迎え,扱われる情報量が爆発的に増加している現在,コンピュータ中で情報の書き込み・読み出しを行なうメモリのさらなる高性能化が要求されている。
磁石の中を伝播する「磁気の壁」(磁壁)をより高速で駆動させる技術は,磁石に電圧を加える手法はそれを省エネルギーで実現するものとして期待されている。これまでは秒速1ミリメートル以下という極めて遅い速度領域でしか主な実証報告がなかった。
今回研究グループは,絶縁体を介して材料と金属電極間に電圧を加えることにより材料の特性を外部から制御する「電界効果」に注目した。材料として膜厚が数原子層程度の極薄な磁石を用いると,電界効果により磁力や磁気異方性(磁気の特定方向への向きやすさを表す量)を制御できることが知られている。この手法は電圧をかける瞬間を除いて素子に電流が流れないため,極めて少ないエネルギー消費で磁性を制御できる。
今回の研究では,磁石であるコバルト(Co)薄膜を白金(Pt)およびパラジウム(Pd)という重金属と積層させたPt/Co/Pd磁石を材料として用い,絶縁体(酸化ハフニウム),金電極からなるコンデンサ構造を作製し実験を行なった。加える電圧の大きさを変えながらPt/Co/Pd磁石における磁壁移動速度を測定した。
測定した結果,+15Vを加えている場合に比べ,-15Vを加えている状態では同じ磁界に対して磁壁がより速く移動していることがわかった。また,秒速100メートルを超える高速な磁壁移動に電圧を加えることにより明確に制御できていた。
さらに詳細な測定を行なった結果,原子レベルに薄い磁石が持つジャロシンスキー・守谷相互作用(DMI:構造反転対称性が破れた材料において,隣り合うスピン(磁気)の方向を捻じる相互作用。特異なスピン構造を発現させる起源として注目を集めている)というエネルギーの大きさが電圧により変化していることが,磁壁速度変化の起源であることを突き止めた。DMIの電圧変調により,高速な磁壁移動を制御できることを実証した点も世界初の成果となる。
研究グループは,今回の研究により,高速・大容量・高耐久性という特性を兼ね備えた究極のストレージメモリとして期待される「レーストラックメモリ」の実現に大きく近づくとしている。