産業技術総合研究所(産総研)は,室温下,光を照射するだけで粘弾性を可逆的に制御できる易加工性のポリマー材料を開発した(ニュースリリース)。
接着技術は,自動車やエレクトロニクスなど多くの製品の製造工程で広く利用されている。代表的な接着剤のひとつであるホットメルト接着剤は,再加熱すれば接着のやり直しが可能。一方で,熱の影響を受けやすい精密光学材料や医療用部材の仮止め,付け直しには不向きで,局所的な加熱が技術的に困難なエレクトロニクス製品の部品交換にも利用できない。そのため,非加熱でリワーク性を発揮する新しい接着剤が求められていた。
今回研究グループは,光応答性を示し加熱成形加工できるポリマーを作製するため,光応答部位を持つポリマーと汎用ポリマーのブロック共重合体化を行なった。作製したポリマー材料は常温で固体であるが,120度以上の加熱により成形でき,支持材が不要な自立性のフィルム(膜厚10µm~)に加工することができた。
このフィルムに,紫外光(波長365nm)と可視光(波長520nm)をそれぞれ数分間照射すると光応答部位の構造変化に伴って,加熱せずとも可逆的に液化(軟化)-固化を繰り返した。このフィルムの軟化過程では,硬さの目安である貯蔵弾性率が最大で100分の1に低下する。このときポリマー表面は,光照射とほぼ同時に軟化し始め,1分以内に弾性率が大きく低下した。
接着剤テープとしての応用を検討するため,ガラス基板やプラスチック基板を用いた接着試験を行なった。実際に,フィルム状に加工したポリマー材料を用いることで,光照射のみで基板の接着が可能だった。さらに,ポリマー材料が固体状態のときは強固な接着力を示すが,ポリマー材料が液化(軟化)すると接着剤層が流動し,接着力が10分の1以下に低下し,接合部を容易にはがすことができた。
さらに,一度外した基板を再利用して,再び光照射により接着を行なうことができ,着脱サイクルを10回以上繰り返すことができた。このように加熱がなくてもリワーク性を発揮するスマート接着剤として応用できることが分かったという。
研究グループは今後,製造プロセスでの仮止めや,解体時に基材を傷めず剥離が可能な接着剤,リワーク性に優れた接着剤などのスマート接着剤への展開を視野に入れ,今回開発した材料の研究開発を進めていくとしている。