理研ら,磁気渦の新しい生成機構を発見

理化学研究所(理研),北海道大学の研究グループは,外部磁場がない状態でも磁気渦が生成していることを発見し,その生成機構を解明した(ニュースリリース)。

磁気構造体を情報担体として利用する磁気記憶素子の高密度化・省電力化に向けて,ナノスケールの磁気渦構造が近年注目を集めている。従来,こうした磁気渦の生成には特殊な対称性の結晶構造と外部磁場が必要であるとされ,物質設計が難しいという問題があった。

研究グループは,磁性金属Y3Co8Sn4(Y:イットリウム,Co:コバルト,Sn:スズ)に着目し,スピンの配列を詳しく調べた。まず,Y3Co8Sn4の単結晶バルク試料を作製し,中性子ビームラインを用いて,中性子小角散乱実験を行なった。

その結果,温度17K(約-256℃)以下,磁場がない状態において,6つのスポットパターンが観測された。また,磁場を試料面に平行な方向にかけても,強磁性状態になる直前まで,6つのスポットパターンが保たれることが分かった。これらの結果は,磁気渦が規則正しく整列して三角形の格子を組んでいることを表す。

次に,この磁気渦の起源を調べるため,磁性金属に特有な多体の磁気的相互作用を取り入れた理論モデルを用いて,六方晶の結晶格子上におけるスピン配列のシミュレーションを行なったところ,磁場がない状態でも磁気渦が現れるという,実験とよく一致する結果が得られた。すなわち,動き回る電子が媒介する多体の磁気的相互作用という磁性金属に内在する性質が今回発見した磁気渦生成の鍵となっていることが強く示唆されるという。

発見した新しい磁気渦の生成機構は多くの磁性金属に内在する性質であることから,新物質だけでなくこれまで見落とされていた物質も磁気渦を形成する物質の候補となり,磁気渦を示す物質の探索・設計に新しい指針を与える。また,磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現に向けた足掛かりとなることが期待されるとしている。

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