九州大学は,京都大学,首都大学東京との共同研究により,光合成の場である葉緑体を細胞の上面に集めることによって植物の生産性を大きく向上させることに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
植物は光をエネルギー源とする一連の光合成反応によって生長に必要なエネルギーを自ら産出するため光合成活性の上昇は,植物の生産性向上につながる。そこで現在,遺伝子組み換え等のバイオテクノロジー技術を駆使して,光合成の諸反応を改変する試みが世界中で盛んに行なわれている。
今回研究グループは,光合成の諸反応ではなく,光合成の場である葉緑体の細胞内の配置に注目した。
葉緑体は,強過ぎる光の下では光を避けて細胞の脇へと移動するのに対して,弱い光の下では細胞の上面に集まるという「葉緑体集合反応」をする。葉緑体集合反応の現象自体は1世紀以上前に発見されていたが,その重要性は現在に至るまで実証されていなかった。
研究グループは様々な変異体を利用して,表面に配置する葉緑体の割合をコントロールすることにより,葉緑体が細胞表面に集合する割合に比例して,葉全体での光の吸収量が増大し,多くの光を光合成に利用できることを明らかにした。
さらに,常に多くの葉緑体を細胞上面に集合させた変異株は,通常の植物に比べて同じ光条件下でも植物体が1.5倍以上も大きくなることを発見したという。
研究グループは,葉緑体の細胞内での配置変化は,藻類から種子植物にいたる様々な植物種が有する普遍的な現象であり,光の質と量によって制御できるため,今回の研究を利用することで様々な植物種の生長速度を自在に制御できると考えられるとしている。