理化学研究所(理研)は「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)」を用いて,コンクリート内の塩分に対して「中性子誘導即発ガンマ(γ)線分析法」を利用した非破壊測定技術を開発した(ニュースリリース)。
沿岸や山間部にある橋梁などのコンクリート構造物は,鉄筋が腐食する塩害が深刻化している。腐食は鉄筋の断面積を減少させる上,周囲のコンクリートをひび割れさせ,落橋などの重大な事故につながる恐れがある。このような事故による被害を未然に防ぐため,構造物の劣化診断の必要性がますます高まっている。
従来の塩害の劣化診断では,測定精度は高いものの,構造物からコンクリート試料を採取するため,部分的な破壊を伴い,煩雑な前処理も必要という問題がある。
今回研究グループは,中性子誘導即発γ線分析法を利用し,非破壊で,コンクリート構造物の深さ方向の塩分濃度分布を評価する技術を開発した。これはコンクリート表面から深さ方向に中性子を照射し,コンクリート表面近くに置かれたγ線検出器により,内部で発生したγ線を検出するというもの。
「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)」を用いて,コンクリート内の塩分測定,およびγ線強度比較法とコリメート法の実証実験を行なったところ,コンクリート表面から鉄筋が存在する十数cmまでの深さで非破壊塩分濃度測定が可能であることが示された。
ランズは,線形加速器で加速させた7MeV陽子をベリリウム(Be)標的に照射し,Be(p,n)反応により,エネルギーが最大5MeVの中性子を発生させる中性子源システム。
この研究により,コンクリート構造物の塩害に対する非破壊検査法の一つとなる可能性が示された。この研究の測定対象となる元素は塩素に限らない。また橋梁や道路に限らず,トンネル壁や建築物などの非破壊検査への適用が期待できるという。
研究グループは今後,中性子源を実際のインフラ構造物付近へ持ち込むための「可搬型中性子源」の開発とともに,γ線検出器,コリメーターや検出器周りの遮蔽の最適化を行ない,コンクリート内塩分の検出能力や濃度分布の深さ精度の向上を目指す。そして,社会実装へ向けた実証機の開発フェーズへと進む計画としている。