筑波大学,電力中央研究所,理化学研究所および米UC Davis Genome Centerらの研究グループは,さまざまな人工光照射条件下でサニーレタスを栽培した際に起こる代謝の違いを,統合オミックス解析により世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
緑色光は植物に利用されないと考えられてきたが,近年,植物が行なう光合成に使われていることが明らかになりつつある。しかし,この光質が代謝に与える影響は分かっていない。また,植物がどの程度の感度で波長の違いを区別しているのかについてもよくわかっていなかった。
そこで,わずか約10nmのスペクトル幅の緑色光照射が可能な狭波長LED光源を用い,サニーレタスの苗に青色光(ピーク波長=470nm)・赤色光(680nm)および2種類の緑色光(510nm,524nm)を,短期間(1日)および長期間(7日),2種類の異なる光強度下(PPFD100,PPFD300)で生育した。これらの組み合わせにより生育したそれぞれのサンプルについて,3種類の高性能質量分析装置を用い,メタボロ―ム解析を行なった。
その結果,短期間の光照射では光強度の差が代謝物プロファイルの差に最も大きく寄与するのに対し,長期間の光照射では光質の違いにより大きな差異が生じることを見出した。また,メタボロ―ムデータの詳細な解析により,味にかかわる成分である糖類やアミノ酸類の蓄積パターンは,光質・光強度・照射期間のすべてに影響を受けることがわかった。
次に,遺伝子の転写物の発現パターン(転写物プロファイル)を包括的に解析できる次世代DNAシーケンサーを用いたRNA-Seq解析により,光質によって代謝ネットワークに与える影響が異なることを明らかにした。
また,サニーレタスが生産する代謝物群のうち、抗酸化成分であるフェニルプロパノイドおよびフラボノイド類の生合成経路に代謝物・転写物プロファイリングの統合解析によって,フラボノール類は青色光照射により特異的に代謝が促進される一方で,クロロゲン酸類は,波長が長くなるにつれ代謝物蓄積量が段階的に変化することがわかった。
この研究により,植物体内で起こっている,「見た目」では分からない代謝が光質や光強度,照射期間により特徴的に変化することが明らかになった。特に,わずかな緑色光波長の違いで生産される代謝物群が異なることから,植物は光をうまく利用して,自らの生長・生存戦略に利用している可能性が示唆された。
これらの成果は,将来的に植物工場などで生産される野菜に対し,味や健康にかかわる有用代謝物生産を自在に操る技術開発に貢献できるものだとしている。