神戸大学,京都大学,大阪市立大学の研究グループは,新しい電子機能性材料として開発が期待されている「メビウス芳香族」とよばれる分子について,光によって磁性を発現する活性種「励起三重項状態」の電子的な性質の詳細を,世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
「メビウスの帯」のようにねじれた環状の骨格構造を持つ共役系分子はメビウス芳香族とよばれ,その特殊な構造から新しい機能性材料としての応用が期待されている。
しかしながら,この特異な環状骨格構造を持つ共役系分子の光照射で生成し磁性を発現する「励起三重項状態」については,電子構造が未だに明らかになっておらず,反芳香族性をどのように発現するかについての機構解明が望まれていた。
研究では,外部磁場存在下で反応中間体の磁気的性質をマイクロ波により検出する時間分解電子スピン共鳴法を用いて,28個のパイ電子を持ちメビウス芳香族性を示す環状分子(ヘキサフィリン)の励起三重項状態を観測した。
その結果,磁性を伴う高エネルギー状態の電子構造は,磁性を発現しない活性種である励起一重項状態とは大きく異なり,電子分布を環状骨格の一部分に局在化させていることが判明した。さらに,互いに直交した電子軌道間で電荷を離して局在化する「電荷移動性」を含むことが明らかになり,この直交性から生じた軌道角運動量(LZ)の変化が高速な基底状態への失活につながることも実証された。
このような軌道の直交性はねじれたメビウストポロジーにのみ発現する特徴でもあることから,軌道角運動量に起因したスピン選択的失活過程は,新しい反芳香族性の指標や励起状態構造解析のツールになるものと考えられる。
今回観測された励起三重項状態は,高い活性を持った反芳香族性を示すことが実証されたことから,今後の機能性有機化合物の開発に大きな契機を与えることが期待される。
また,このような活性の高い励起状態の電子的特性を利用することにより,今後の有機太陽電池や光,電気伝導性材料など,多方面での電子機能性材料への応用に活かすことが可能になるものと考えられ,この原理の応用によるエネルギー問題,環境問題の解決も期待されるとしている。