東京大学は,中国東北師範大学と共同で,ペロブスカイト太陽電池の耐久性を10倍長く向上させる新物質を見いだした(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池は20%近いエネルギー変換効率を示すものの,有機金属ペロブスカイトは水や酸素に不安定という課題があった。そもそもペロブスカイト太陽電池は,電荷選択層であるホール輸送層に有機半導体を用いる。有機半導体そのもののホールを輸送する特性は十分でなく,有機半導体にリチウム塩をドープし,酸素を含む空気中で光を当てて有機半導体から電子を引き抜く(ホールをドープする)必要がある。このリチウム塩は吸湿性を持ち,電子を引き抜くのに酸素が必要という矛盾があった。
今回,研究グループは,従来のリチウム塩を用いず,リチウムイオン(Li+)をフラーレンC60の殻で包んだ新しいリチウム塩(リチウムイオン内包フラーレン,Li+@C60)を用い,ペロブスカイト太陽電池の耐久性を10倍向上させることに成功した。
日本のベンチャー企業で開発されたリチウムイオン内包フラーレンは,リチウムイオンが疎水性のC60の中にあるため吸湿性が低く,高い電子親和力を持つ。電子を引き抜く酸素を別途必要とせず,有機半導体であるspiro-MeOTADから電子を引き抜くことができる。有機半導体からリチウムイオン内包フラーレンに電子移動がおこり,ホールがドープされた有機半導体と,中性のリチウム内包フラーレン(Li@C60)ができる。
この電子移動は,ホールドープされた有機半導体と中性のリチウム内包フラーレンが示す,特徴的な光吸収スペクトルで確認され。このとき生成する中性のリチウム内包フラーレンは抗酸化作用をもち,太陽電池に微量に含まれる酸素を取り除く効果を持つ。
こうしてリチウムイオン内包フラーレンの疎水性とリチウム内包フラーレンの抗酸化作用により,水や酸素に対してより安定なペロブスカイト太陽電池が実現した。未封止の素子では,独特な耐久性挙動を示した。従来のペロブスカイト太陽電池では,未封止であると,吸湿性のあるリチウム塩を含む有機半導体層がまわりの水を引きつけ,50時間で素子は働かなくなる。
今回のリチウムイオン内包フラーレンを含む未封止の素子では,50時間くらいかけてゆっくり変換効率があがり,最高効率点から約500時間かけて効率が低下していった。これはリチウム内包フラーレンにより酸素が遮断されるため,有機半導体中のホール生成が遅く,一方,水や酸素の遮断により発電層の分解も遅いため。
また,寿命は10倍長くなったといえる。最高点でのエネルギー変換効率は,16.8%だった。また,封止した素子では,実用化の目安とされる疑似太陽光連続照射1000時間で効率の低下が10%以内という要件に収まった。リチウムイオン内包フラーレンは,ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に貢献するだけでなく,有機エレクトロニクス材料の高機能化と安定性向上にも資するとしている。