筑波大ら,溶媒蒸気の識別が可能な蛍光材料を開発

筑波大学,東京工業大学,京都大学,独ハイデルベルク大学は共同で,π共役デンドリマーから形成する多孔性マイクロ結晶の作成に成功した(ニュースリリース)。

蛍光センシングのうち,蛍光発現(turn-on)型で,なおかつ固体状態で使用可能な蛍光センサーは実用的に重要となっている。また,発光色変化を伴う蛍光センシングは,複数の検体を識別可能であることから,材料の探索が活発に進められている。特に,表面積が大きくてナノメートルサイズのチャネルを有する多孔性材料は,ガスや蒸気のセンシングに適していると考えられる。

今回,研究グループは,π共役デンドリマーとよばれる巨大分子から,多孔質の結晶性ファイバーを作成した。デンドリマー1のコア部位には電子受容性のトリアジンが,シェル部位には電子供与性のカルバゾールデンドロンが用いられている。この分子1は、熱活性化遅延蛍光(TADF)特性を示すことから,塗布型有機EL素子のホール輸送層/発光層としての応用が検討されている。

分子1の溶液中における自己組織化挙動を詳細に検討した結果,蒸気拡散法によりファイバー状の構造体を形成することを明らかにした。一方,蒸気拡散の際の初濃度を1/10にまで下げて同様の方法で自己組織化を行なうと,アモルファスな球体が形成した。ファイバーの単結晶および粉末X線回折測定から,このファイバーは長軸方向に1次元のナノサイズのチャネルを有することが明らかになった。

窒素ガス吸着測定より,このファイバーは650m2/g以上ものBET表面積を示した。そこで,この多孔性ファイバーを様々な溶媒蒸気に晒して蛍光観察を行なった結果,ほとんどの溶媒蒸気に対して蛍光強度の顕著な増大(turn-on)が観測され,さらに溶媒の種類により蛍光色が大きく変化することが明らかになった。

この分子はTADF特性をもつことから,大気中では3重項酸素により蛍光の大部分が消光してしまうが,溶媒分子が細孔内部に吸着し,酸素を追い出すことで蛍光がturn-onする。また,この発光は電荷移動(CT)発光であり,励起状態のエネルギーは極性分子の吸着により大きく安定化するため,溶媒の極性に伴う大きな蛍光色変化が起こる。

さらに,このナノ細孔には,気体や溶媒蒸気だけでなく,昇華した有機分子も導入可能であり,例えば電子受容性分子であるTCNQを昇華して導入することで,蛍光が完全に消光することも確認される。

電子供与性ー受容性デンドリマーを用いることで,揮発性ガスや有機分子を高感度に識別可能な多孔性結晶は,新しい分子識別材料としての応用が期待できるという。また,爆発性のニトロ化合物や有毒な揮発性分子などの識別においても,この多孔性デンドリマー結晶は大きな威力を発揮することが期待できるとしている。

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