千葉大学の研究グループは,「医薬や機能性分子の創製に重要な光学活性1,3-ジアミンの新規な触媒的不斉合成」に成功した(ニュースリリース)。
入手容易な原料を用い高付加価値な化合物を創製することは,現代科学の大きな課題となっている。通常,求核種(Nu)と求電子種(E)は1:1で反応して,生成物(Nu-E)を与える。このタイプの反応は,生成物が安定で嵩高いために1:1生成物で反応が停止することが多く,広く研究されてきた。
しかしながら,マロノニトリルやニトロメタンなど酸性なプロトン(「活性プ ロトン」という)を塩基で引き抜いて発生させた求核種(Nu)を用いる反応では,生成物(Nu-E)は依然「活性プロトン」を有しており,もう一分子の求電子種(E)とさらに反応する潜在能力がある。
こうして得られる1:2もしくは1:3反応生成物は従来であればオーバーリアクションによる副生成物として位置づけられてきた。今回,敢えて低分子量化合物をジョイント分子とする1:2や1:3生成物を与える触媒化学に焦点を当て,ポリアミン等新奇光学活性化合物の合成を目指した。
マロノニトリルの2つのニトリル基を効果的に活性化できる2核のパラジウム錯体を開発した。phosphoiminoBINOL配位子が,ニトリル基と高い親和性を持つ金属イオン(M1)を適切な位置に2つ配置し,触媒活性を制御するもう一つの金属イオン(M2)も取り入れることができる設計。
このような設計によって開発した錯体は,マロノニトリルと強い相互作用を持つことが明らかになった。(X線結晶構造解析で解明された構造では,2つのパラジウムに挟まれた大きな反応場に水分子が1つ取り込まれた構造を有している)
この錯体に酢酸亜鉛を添加するとマロノニトリルがN-Bocイミンと反応するようになり,目的の化合物を光学活性体として得ることができるようになる。特に,マロノニトリルに対しN-Bocイミン2.5等量を加えることで1:2生成物である1,3-ジアミンを高収率,高エナンチオ選択的でに得ることができた。
この光学活性1,3-ジアミンは,医薬や機能性材料(例えばデンドリマーの新奇キラルコアなどナノマテリアル科学にも応用が期待できる)の開発に重要な化合物。従来は厄介ものであった「オーバーリアクション」も,見直せば有用な化合物を提供できる魅力的な反応になることが示された。