東大,究極の大規模光量子コンピューター実現に道

東京大学は,光路上で一列に連なった光パルスを用いる手法を生かしながら,どれほど大規模な計算も最小規模の回路構成で効率よく実行できる究極の光量子コンピューター方式を発明した(ニュースリリース)。

光量子コンピューターの実現方法として,情報を乗せた多数の光パルスを多数の光路上に同時に準備し,それらを光回路によって処理する方式が考えられてきた。しかし,この方式では計算量が増えると回路規模が増大し,実用レベルの計算を行なうには膨大なスペースと膨大な数の光学部品が必要となる。このため,この方式では10量子ビット程度での計算が限界だった。

一方でごく最近,1本の光路上に多数の光パルスを一列に並べる方式にすれば,従来よりも桁違いに大量の情報を扱えることが分かってきた。実際にこの方式に基づいて,比較的小規模な光回路で,量子もつれ状態にある100万個の光パルス(100万量子ビット相当)を発生させる実験が行なわれた。

さらに,この大規模な量子もつれ状態の光パルス群を用いれば,大規模な計算が実現しうることも分かった。しかし,この計算手法は計算に用いない不要な光パルスが大量に発生するため非効率的であり,それらの不要な光パルスを消去する処理が増える分,計算ステップ数の増加や計算精度が制限されるという問題がある。このため,量子もつれ状態の光パルス群を用いた大規模計算はいまだ実現には至っていない。

今回,研究グループは,光路上で一列に連なった光パルスを用いる手法を生かしながら,どれほど大規模な計算も最小規模の回路構成で効率よく実行できる,究極の光量子コンピューター方式を発明した。今回の方法のポイントは,ループ構造を持つ光回路を用いた新手法により,計算の基本単位となる「量子テレポーテーション」回路1個を無制限に繰り返し用いて大規模な計算を行なうことにある。

光を用いた量子計算は,量子テレポーテーション回路を用いて実現できることが知られている。例えるなら,量子テレポーテーション回路1ブロック(1単位)は,加減乗除のような基本的な計算1ステップ分に相当する。いくつもの数字を何度も足したり掛けたりするような複雑な計算も,量子テレポーテーション回路を何ブロックも連ねることで実現できる。

従来のように多数の光パルスを空間的に並べて処理する方式では,計算量の増加と共にブロック数が増加するため,実用レベルの大規模な計算を実現するのは困難だった。一方でこの方式は,時間的に一列に並べた多数の光パルスが,1ブロックの量子テレポーテーション回路を何度もループする構造になっている。

ループ内で光パルスを周回させておき,1個の量子テレポーテーション回路の機能を切り替えながら繰り返し用いることによって計算が実行できる。前の例えで言えば,1個の回路を,ある時は足し算,ある時は掛け算のように機能を切り替えて何度も用いるということ。この方式の強みは以下の通り。

① ループ内で光パルスを周回させ続ければ,1個の量子テレポーテーション回路を回数無制限で使用でき,どれほど大規模な計算でも実行できる。
② 構成要素は1ブロックの量子テレポーテーション回路とループ構造だけで,最小限の光学部品しか必要としない。
③ 量子テレポーテーション回路の機能の切り替えパターンを適切に設計すれば,全ての光パルスを使って無駄なく効率のよい手順であらゆる計算が実行でき,前述した量子もつれ状態の光パルス群を用いた計算手法が持つ欠点も存在しない。

この手法を用いれば,大規模かつ汎用の光量子コンピューターが,最小規模の光回路を用いて実現可能になるという。これまで他のシステムでは数十量子ビット程度が限界だった量子コンピューターも,この方式では原理上100万個以上の量子ビットを何ステップも処理するような,桁違いの大規模量子計算が実行可能になると見込む。

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