東京大学は,京都大学,英ブリストル大学,仏エコール・ポリテクニーク,独マックスプランク研究所らと共同で,レアアース(希土類)元素Ce(セリウム)をベースとした超伝導体CeCu2Si2において,長年信じられてきた磁気的なゆらぎに基づく超伝導の機構では説明できない超伝導状態が実現していることを実験的に明らかにした(ニュースリリース)。
磁気的なゆらぎは,高温超伝導をはじめとした電子間の相互作用が強い系(強相関電子系)で起きる超伝導のメカニズムとして最有力候補となっている。超伝導体における電子状態の対称性は超伝導発現機構と密接な関連があり,強相関電子系で実現する超伝導の代表例である銅酸化物高温超伝導体はd波型の対称性であることが知られている。
1979年に発見されたレアアース系超伝導体CeCu2Si2はこのような強相関電子系における超伝導のプロトタイプかつ典型例であり,銅酸化物高温超伝導体と同様にd波型の対称性の電子状態をとると思われていた。しかし,最近の研究ではs波型の対称性であることが明らかになり,超伝導の発現機構について再び注目が集まっている。
今回,試料中の不純物が超伝導電子の壊れやすさに与える影響を30ミリケルビン(室温の約1万分の1の温度)の極低温まで詳細に調べた結果,磁気的機構に特有な低エネルギー状態の変化が全く現れないことが明らかになった。この結果から,磁気的なゆらぎによる超伝導は,CeCu2Si2の超伝導発現機構から完全に排除されることになる。
この成果は,その発見以来長年に渡り議論が続いていたCeCu2Si2の超伝導発現機構に決定的な証拠を与える発見であり,電子同士の相互作用が強い系で発現する超伝導の統一的な理解に向けて重要な手掛かりとなることが期待されるという。