物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,分子を量子ドットとして用いた縦型共鳴トンネルトランジスタの作製および動作の実証に成功した(ニュースリリース)。
シリコンデバイスと同じ微細化プロセスを適応し,分子の持つ離散的なエネルギー準位を利用して,“0”と“1”の2値だけでないトランジスタの多値制御に繋がる成果を得た。次世代トランジスタに求められる微細化,高集積化,低消費電力化に加え,高速化を同時に実現する分子デバイスの開発につながると期待される。
単一分子をトランジスタやメモリの素子に用いる分子デバイスの開発は,究極のナノエレクトロニクスとして期待されており,ここ20年の間に,単一分子の電気伝導を計測する技術が確立され,分子の優れた機能が示されてきた。しかし,分子デバイスを集積する技術が確立されておらず,いまだ基礎物性の評価に留まっている。
一方,シリコントランジスタのさらなる高速化,高集積化,低消費電力化を実現するため,電子のトンネルリングを用いたトンネルトランジスタや,多値制御を可能とする単電子トランジスタが注目されている。ただ,トンネルトランジスタは,“0”と“1”の2値動作という点では従来のトランジスタと変わらず,単電子トランジスタも量子ドットのサイズをナノスケールで均一に制御することが難しいため,いまだ実用化されていない。
これらの問題を解決するため,研究グループはこれまで,絶縁体の間に分子を壊すことなく集積する技術を確立し,分子を量子ドットとして,絶縁体間に共鳴トンネル電流が流れることを実証してきた。分子はナノスケールで均一に合成できるため,サイズの制御も容易。さらに,分子のエネルギー準位が分子設計や外場によって制御できる利点を活かして,共鳴トンネル電流の多値制御も可能であることを2端子構造において実証してきた。
今回,上記の成果をさらに発展させ,絶縁体部分に分子を内包したチャネル層を,既存のリソグラフィー技術を用いて微細加工することにより,縦型共鳴トンネルトランジスタを作製した。既存の微細化技術は,有機材料であるレジストや有機溶媒を使用するため,通常の分子デバイスでは使用できない。
しかし,今回提案したトランジスタ構造では,分子が絶縁膜で保護されているためシリコンプロセスで培った微細化技術が適応できる。さらに,作製したトランジスタを用いて,低温条件下 (20K) にて,ゲート電圧によってトンネル電流が階段状に変化する様子を観測した。
今回作成したトランジスタ構造は,縦型のため高集積化が可能で,トンネル電流を使うことで低消費電力化も実現できる。さらに,分子設計に基づいたトランジスタの多値制御が実現できることを示しており,シリコントランジスタの限界を超えた高速化,高集積化,低消費電力化を実現する次世代ナノトランジスタの開発が期待できるとしている。