分子研,大気圧下での硬X線光電子分光測定法を開発

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業において,自然科学研究機構分子科学研究所は,硬X線による大気圧下での光電子分光測定方法の開発に,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

燃料電池自動車(FCV)は,究極のエコカーとして今後本格的な普及が期待されている一方で,使用される固体高分子形燃料電池(PEFC)の低コスト化,車種の拡大に向けた燃料電池の高機能化(高出力化・高耐久化)といった技術課題が存在する。

NEDOは,2025年以降の本格普及期に求められるFCV用燃料電池の要求値を設定し,これらの達成に資する燃料電池の高度な解析・評価技術や,新しい材料設計指針の創出を目的としたプロジェクトを2015年度より実施している。FCV用燃料電池の技術課題を解決していくことは,家庭用燃料電池(エネファーム)等の低コスト化・高機能化の実現にも繋がると期待できる。

光電子分光測定は,さまざまな物質を原子レベルで分析可能であり,燃料電池開発では電極触媒の研究に広く用いられている。しかし,測定試料の周囲を,大気圧より大幅に低い圧力(真空状態)に保つ必要があるため,実動作環境では電極触媒の周囲に存在する燃料ガスと水を共存させた状態での観測を行なうことができなかった。

光電子分光測定は,試料から放出される電子のエネルギーを測定することで,試料の状態を観測する手法。今回,研究グループは,大気圧下での測定を実現するために,放出される電子の運動エネルギーを高めること等により,大気圧下でも電子のエネルギーを測定可能とする技術開発に成功した。

この技術を,大型放射光施設SPring-8の「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」(BL36XU)に設置された光電子分光測定装置に適用し,測定検証試料である金薄膜を対象として,大気圧下での光電子分光測定を行なうことができた。

今回開発した測定方法を活用することで,燃料電池性能を大きく左右する電極触媒について,実際に電池が作動する大気圧下での挙動観測が可能となる。今後,電極触媒の反応や劣化メカニズムの高精度な観測を行ない,その知見を触媒開発にフィードバックすることで,燃料電池の高出力化・高耐久化を推進し,FCVの本格普及に向けた課題解決や家庭用燃料電池(エネファーム)のさらなる導入拡大に貢献していくとしている。

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