京都大学の研究グループは,脳内にあり,記憶の強化や減弱に深く関わる神経伝達物質受容体であるAMPA受容体に蛍光の目印をつけ(蛍光標識),イメージングで動きを調べることができる新たな手法を開発した(ニュースリリース)。
AMPA受容体はグルタミン酸受容体の一種であり,記憶の強化や減弱に伴い細胞膜上での発現量が変わることが知られている。記憶の分子メカニズムを詳細に究明するためには,細胞膜上のAMPA受容体に目印をつけて,その動きをイメージングによって観察できる技術の開発が欠かせない。
これまでに,蛍光たんぱく質や抗体を使ってAMPA受容体を蛍光標識する技術が開発されているが,細胞膜上だけでなく細胞内の受容体も標識されてしまい,脳組織への適用ができないといった難点があり,記憶の分子メカニズム解明が滞っている一因となっている。
そこで研究グループは,AMPA受容体を蛍光標識できる新たな有機化合物(ラベル化剤)を開発し,生きた神経細胞や脳組織にも適用できることを見出した。このラベル化剤を用いた方法では,細胞膜上にある受容体だけに,その機能を保ったままで蛍光の目印をつけられる。
観察の結果,情報伝達を担う神経伝達物質受容体の神経細胞膜上での動きが,従来考えられていたよりもかなり制限されていることを明らかにした。また,ラベル化剤は小さいため抗体に比べて組織浸透性が高く,これまで蛍光標識が難しかった脳組織の深部にある受容体にも適用できることを実証した。
今後,この分子技術を活用して受容体の異常を調べることで,神経疾患や精神疾患の診断に活用できることが期待されるとしている。