理化学研究所(理研)と神戸製鋼の共同研究チームは,鋼材の塗膜下の水の動きを中性子による非破壊検査で詳細に捉え,腐食の原因となる鋼材塗膜下の水の滞留を定量的に評価する手法を開発した(ニュースリリース)。
橋梁などのインフラ構造物に利用される鋼材の最大の弱点はさびやすい,すなわち腐食することにある。それを防ぐ手段として塗装が最も広く用いられている。しかし,塗装した鋼材は時間経過に伴い塗膜の欠陥部などから水が塗膜下に浸入し腐食が進行する。このため定期的な塗り替えが必要で維持管理コストが増大する要因となっている。
腐食の進行を遅らせる塗料や合金鋼などの開発が行なわれているが,さらに開発を進めるには鋼材の腐食メカニズムの解明が欠かせない。しかし,これまでのX線を利用した非破壊検査では,腐食の原因となる水に対する感度が低く充分に解析できなかった。そこで,水の検出能力が優れている中性子を用いた非破壊検査が注目されている。
共同研究チームは,理研が開発した,鋼材塗膜下の水の動きを定量的に評価する独自の解析手法を,大強度陽子加速器施設J-PARCでの実験に適用した。高強度中性子による高時間・高空間分解能な中性子イメージングの結果,一般的な鋼材である炭素鋼(普通鋼)と塗装耐食性を向上させた合金鋼を対象に塗膜下の水の動きを数時間にわたり詳細に観察し,定量的に評価することに成功した。
合金鋼に比べて普通鋼は保水能(水の滞留を示す値)が大きく,腐食が進行しやすいことが分かった。また,普通鋼の腐食は厚み方向だけでなく,鋼板の面方向にも広がりやすいことも分かった。
今後,鋼材の腐食に関する多くの定量的なデータを得ることで鋼材の腐食メカニズムを解明し,維持管理コスト低減を実現することが期待できるとしている。