横国大ら,テラヘルツ波を高速に測定する手法を開発

横浜国立大学,米ブリガムヤング大学らの研究グループは,ファイバーを用いた時間領域伸長法を,100フェムト秒を切る超短時間分解能の超高速分光法と組み合わせることにより,物質の超高速応答やテラヘルツ電場波形を高速に検出することに成功した(ニュースリリース)。

近年,サブピコ秒(100フェムト秒),テラヘルツ領域で起こる現象を可視化する超高速・テラヘルツ分光法が注目を集めている。これらの分光法では,フェムト秒の超短パルスレーザーをポンプ光とプローブ光に分け,ポンプ光によって誘起された光励起状態や発生したテラヘルツ波のダイナミクスを,プローブ光によって検出している。

このため,ダイナミクスに関する情報を得ようとすると,プローブ光を照射するタイミングを変化させながら多数回測定する必要があった。したがって,これらの分光法を一回限りの不可逆な現象や時々刻々変化する現象,高速で波形をモニターする必要のある応用等に適用することは困難だった。

このような背景から,単一のレーザーパルスを用いて時間領域のダイナミクスを測定する手法が数多く提案されてきた。これらの手法では超高速ダイナミクスの時間情報を波長,空間,角度など別の自由度にマッピングすることで,単一パルスによるダイナミクス検出を実現している。

しかしながら,これまでに提案されたいずれの手法も,最終的にはCCDカメラやCMOSカメラ等,二次元の検出器を用いて情報を読み出すために,測定の速度がカメラの性能で律速されるという問題があった。

このような問題を解決するために,研究では,長距離ファイバーを用いた時間領域伸長法と,チャープパルスを用いたシングルショット分光法とを組み合わせることによって,単一のフォトダイオードとオシロスコープでシングルショットの超高速波形を検出することに成功した。

この方法ではまず,ガラスロッドを透過する速度が波長ごとに異なる群速度分散を用いて,レーザーパルスのパルス幅を4ps程度に伸長し,試料に照射する。すると,ポンプ光,もしくはテラヘルツ光による超高速変調がプローブ光のスペクトルに書き込まれる。

これを読み出すためにさらに長距離ファイバーにプローブ光を通すことで,同様の群速度分散を利用してパルス幅をナノ秒オーダーにまで伸長し,そのスペクトルを時間領域の信号として読み出す。測定はフォトダイオードとオシロスコープで行なうので高速化が可能であり,kHzの読み出し速度を容易に実現できるという。

研究では,この手法を,非線型光学媒質の非線型係数評価,DVD等に用いられる相変化材料の超高速相変化ダイナミクス測定,テラヘルツ電場検出の三つの実験によって実証した。非線型係数評価では,ポンプ光の強度を高速で変化させることで,1秒程度で信号のポンプ光強度依存性を測定できることを示し,相変化ダイナミクス測定では,実際に不可逆的で一回限りの現象を高繰り返しでモニターできることを明らかにした。

また,テラヘルツ電場波形の測定では,適切な波長,及びパルス幅のレーザーを利用することで,電場波形を高精度で測定できることを示した。

この研究成果,シングルショットかつ高繰り返しの超高速応答の計測は,テラヘルツ,ピコ秒領域の時間情報を,ギガヘルツ,ナノ秒領域の信号に変換する新たな方向性を示したもの。したがって,現在では非常に高価で帯域も限られるテラヘルツ領域のオシロスコープを,安価かつ広帯域で実現できる可能性がある。

また,高繰り返しで時間情報を読み出すことで,不可逆的な現象のダイナミクス測定に用いることができるだけではなく,イメージングをはじめとする多数回測定を必要とする応用に対して測定時間短縮のブレークスルーをもたらすものだとしている。

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