京都大学は,光子を用いた量子回路により,量子重ね合わせ状態をとりうる「シャッター」を実現することに成功した(ニュースリリース)。
さらに光子を2重スリットに入射する実験において,特定の条件下では重ね合わせ状態にある一つの量子シャッターで,二つのスリットを同時に遮断できることをはじめて実験的に示した。
量子力学では,一つの粒子が複数の場所に同時に存在する量子重ね合わせ状態をとることができる。光の波の性質を確認した「ヤングの2重スリット実験」(二つのスリットを通した光がスクリーンに干渉縞を形成することを見る実験)を,光子を1個ずつ用いて行った場合も,実験を繰り返すと光子の検出位置の分布は干渉縞を形成する。
これは1個の光子が重ね合わせ状態になり,同時に二つのスリットを通ったからだと考えられる。また,通常のシャッター1個で一方のスリットを遮断すると,この干渉が失われることもよく知られている。
2003年に米国とイスラエルの物理学者らは,たった一つの「量子シャッター」(二つのスリットの位置に同時に存在する,すなわち重ね合わせ状態をとりうるシャッター)を用いて,複数のスリットを同時に遮断することができることを理論的に予言した。
しかし,必要な性質を満たす「量子シャッター」の実現が困難だったため,実験的に実証されていなかった。
そこで研究グループは,光量子回路を用いて,スリットを透過した光子とシャッターによって弾き返された光子の数を測定し,どの程度光子を遮断できているかを見積もった。
その結果,たった1個のシャッターで,古典的な限界を超えて二つのスリットを同時に遮断することが可能なことを確認した。さらに,シャッターで弾き返された光子が干渉することを確認,その量子性を保っていることを実証した。
これは,量子力学のもつ不思議な性質を,より本質的に浮かび上がらせるとともに,将来の量子コンピュータの実現にも寄与する成果だとしている。