大阪大学と東京工業大学の研究グループは,高性能なスピントロニクス材料を用いた微小スピン素子において,希薄磁性合金(近藤合金)における近藤効果をスピン流の伝導を介して世界で初めて検出することに成功した(ニュースリリース)。
希薄磁性合金における近藤効果は,温度を下げていくと電気抵抗がある温度(近藤温度付近)で上昇に転じる現象として知られている。この現象は,近藤淳博士によって1964年に理論的に説明された現象だが,近藤博士の理論と実際の実験結果が極低温領域で一致しないことが知られていた。
その後の理論研究の進展により,極低温領域では磁性不純物のスピンと伝導電子のスピンが反強磁性的に結合した基底状態を形成するために,スピン散乱が抑えられ,電気抵抗がある値に収束することによることが分かってきた。
浜屋教授らの研究グループでは,強磁性ホイスラー合金という高性能なスピントロニクス材料をスピン流生成源として用いることで,近藤合金中のスピン流伝導を直接観測することに成功し,磁性不純物スピンが近藤温度よりもはるかに高温からスピン散乱に寄与することを明らかにした。
また,近藤温度以下では,スピン散乱の影響が変化しないことをスピン流伝導から直接的に解明した。さらに,スピン注入量を人為的に増やすことで,スピン散乱の影響が変調されることを新たに発見した。これは,近藤効果をスピン流で制御することができることを表すもの。
この成果により,50年の歴史がある近藤効果の物理に対して,スピン流を用いた新しい検出・制御法が提案され,その詳細な機構解明に大きな寄与が期待されるという。また,スピントロニクス技術が物性物理の解明に大きく寄与した結果として重要な意義を呈したものだとしている。