茨城大ら,レーザー照射による スピン流制御で新理論

茨城大学,スイス ジュネーブ大学,独マックスプランク研究所の研究グループは,強誘電性と強磁性を同時に有するマルチフェロイック磁性体にレーザーを照射し,ピコ秒という超高速の早さでスピン秩序をひねる方法を理論的に提案した(ニュースリリース)。それによって得られるスパイラル状態を使うことで,スピン流を誘起することができるという。

固体結晶の巨視的な性質は,一般にその中に含まれる莫大な数の電子が担っている。例えば,固体中の電子が微小な電場で流れやすい状況にあればその固体は金属であり,逆に何らかの理由で電場を印加しても電子が流れにくい場合は絶縁体となる。また,絶縁体についても,多様な性質に応じてそれらを分類することができる。

電子の重要な属性として,電荷とスピンがある。絶縁体の中で,電場を印加すると負電荷をもつ電子が正電荷のイオンの位置からずれやすい(電気分極が発生する)物質は,誘電体と呼ばれる。一方,磁場の印加により,電子スピンが協調して応答する物質を磁性体と呼ぶ。

それに対し,近年,誘電体と磁性体の性質を同時に有する物質群が注目されており,複数(マルチ)個の強い(フェロ)秩序を有することから「マルチフェロイクス」と呼ばれ,その豊かな物性が精力的に研究されている。

標準的な誘電体や磁性体がそれぞれ電場と磁場にのみ応答するのに対して,磁性と誘電性が強く結合しているマルチフェロイクスにおいては,電場と磁場の両方でその磁性を制御することができる。これは電場と磁場の両方の成分をもつレーザーに対して特別な応答を示すことを示唆する。

研究グループでは,この誘電性と磁性の絡み合いに着目し,スピンカイラリティ機構を持つマルチフェロイクス群に,テラヘルツ領域の円偏光レーザーを照射することで,ジャロシンスキー守谷相互作用(DM相互作用)を誘導できることを理論的に明らかにした。

磁性体では通常隣接する電子スピンの向き(N極からS極に向かう矢印)が平行に揃う傾向が強いのに対し,DM相互作用は,隣接電子スピン間の角度をひねらせようとする。磁性体の中のDM相互作用の大きさは磁性体の微視的な性質で決定されており通常変化させることはできないが,研究グループの予言では,レーザー照射によりマルチフェロイクスのスピン秩序をひねらせることができることを示唆しているという。

スピン秩序をひねらせることは,スピン流の生成と密接に結びついている。スピン流は,近年精力的に研究が進められているにおける最も重要な概念のひとつであり,エレクトロニクスの主役である電流に代わる新しい情報伝達の担い手として,多様なスピン流生成方法が探求されている。この研究の予言は新しいスピン流生成方法の提案と解釈することもできるとしている。

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