ドイツ貿易・投資振興機構(GTAI)は,8月30日,ザ ランドマークスクエア トーキョー(東京・品川)にて,旧東ドイツ地域であるテューリンゲン州の光学産業クラスターへの企業誘致を目的としたセミナーを開催し,ドイツ政府関係者および同州に拠点を持つ光学企業・研究所の代表が,光学企業にとっての同州の魅力や産業の現状について講演した。
テューリンゲン州はドイツ再統一時に誕生した新連邦州5州の一つで,ドイツのほぼ中央に位置する。テューリンゲン州開発公社(LEG)のアーヌルフ・ヴルフ博士は,発達した交通インフラにより,同州から他のドイツの主要都市まで車で5時間以内で行けるなど地の利が良いことや,800キロの商圏内の総生産額が東京の倍以上の3.9兆ユーロ,潜在顧客が上海と同等の2億8,000万人もいることなどを紹介した。
同州には自動車のサプライヤーや機器メーカーなどが多く,日本からも富士フイルムやニデックなど光学関連メーカーをはじめとして既に16社が進出しているという。
大学やフラウンフォーファなどの研究所も多く,質の高い労働者が多くいること,多様な研究開発に対する投資・補助制度があるといった利点を挙げ,LEGでは進出企業に対する立地や補助金,人材の紹介,クラスター管理や諸手続き,ビジネスパートナー紹介などをワンストップで提供するとしている。
GTAIのジェローム・ハル氏は,ドイツのフォトニクス産業が今後大きく伸長することが期待されているとして,2011年に270億ユーロだったドイツのフォトニクス産業の生産高は,今後B to Bを中心に大きく成長し,2020年には440億ユーロにまで拡大するとの見込みを示した。この裏付けとして,ドイツ政府が推し進める,デジタル経済や再生可能エネルギーなどの6分野に注力するハイテク戦略がある。
同州の光産業クラスターであるOptoNet協会のクラウス・シンドラー博士は,1999年に13社で始まった同クラスターが,現在は100社以上が参加するまでに成長した経緯を紹介した。クラスターにはCarl ZeissやSchottといった名門企業やフラウンフォーファ研究所も参加している。また,同州には全部で8つのフォトンクラスターがあり,総勢は500社を数えるという。
同州に居を構える企業の一つで,AIRBUSの子会社であるJena-Optronik CEOのディートマー・ラッツシュ氏は,同社が大きなシェアを持つ宇宙産業向けセンサーについて紹介した。同社は衛星の姿勢制御センサーや,ランデブーのためのLiDARセンサーなどを作っており,NASAやJAXAに供給している。その製造は分光器の場合,レンズ加工やレンズコーティング,芯出し・組み立てなどの高度な工程を,クラスター内のバリューチェーンで行なっていることを例として挙げた。
カール・ツァイスの代表取締役社長 ロルフ・バイヤスデェルファー氏は,同社の日本のカメラメーカとの協業と共に,力を入れているリソグラフィ事業や研究向け顕微鏡の実績について語り,コンシューマー向けとして百貨店に眼鏡用レンズなども納入している現状を紹介した。
最後にフラウンフォーファー応用光学・精密機械工学研究所所長のアンドレアス・トゥナーマン博士は,日本とドイツの共通点として,盛んなモノづくりとそれを脅かす少子高齢化を挙げ,この問題はインダストリー4.0が解決するとした。その実現にはオプティクスやフォトニクスが大きなカギを握るといい,例えば同研究所では太陽光発電などに資するフォトンマネージメントとしてナノ構造の研究をしているという。
さらにモニタリングシステムとしてハエの複眼を模した構造のカメラの開発を行なっている他,ハイパワーファイバーレーザーや,コマツと開発したEUV向け集光ミラー,米と開発する生体認証システムなどを例に挙げ,今後は更なる産学連携が必要になるとしてこの日の講演を終えた。
ヨーロッパではイギリスのユーロ離脱やトルコの政情不安など緊張も高まっているが,ドイツはその中でも安定した国の一つであり,光学にとってもなじみの深い地であることから,ヨーロッパ進出の拠点として大いに魅力的と言えるだろう。GTAIは日本にも拠点があり,代表の浅川石見氏は「興味があれば気軽に事務所に立ち寄ってほしい」としている。なお,このセミナーは9月1日にも浜松で開催するが,こちらは既に満席となっている。