岡山大学の研究グループは,「ケージドアミノアシルtRNA」という光応答性の化合物を開発し,これを用いてタンパク質合成を光で制御する方法を開発した(ニュースリリース)。
今回作ったケージドアミノアシルtRNAは青色の光を当てると分解して「アミノアシルtRNA」という物質を生じる。このアミノアシルtRNAという分子は,細胞内のタンパク質合成においてコドン(暗号)どおりにアミノ酸(タンパク質の材料)を運ぶ役割をする。
必要なコドンに対するアミノアシルtRNAが無ければタンパク質合成は進まない。従って,ケージドアミノアシルtRNAを含むタンパク質合成系では,光に依存的にタンパク質合成を進めることが可能となる。
今回,リポソーム内,ゲル内,生細胞内などにおいて,光依存的なタンパク質合成を行なうことに成功した。このことは,狙ったタイミングで,狙った位置において,特定のタンパク質の合成を制御可能ということを示している。
ケージドアミノアシルtRNAは,天然のタンパク質合成系では用いられない特別なコドンに対応している。そのコドンは,目的のタンパク質のmRNAの中だけに含まれるようにしているため,他のタンパク質の合成には影響を与えない。その結果,光で目的のタンパク質の合成だけを制御することができる。
さらに,ケージドアミノアシルtRNAのアミノ酸部分は,化学合成(と酵素合成の組み合わせ)で作っているため,天然アミノ酸だけでなく,非天然アミノ酸にすることもできる。非天然アミノ酸を用いることで,天然アミノ酸だけでは得られない特別な機能をタンパク質に付与することも可能だという。
この技術により,光による「時空間的なタンパク質合成の制御」が可能になった。今回開発した光依存的なタンパク質合成技術は,発生過程や神経伝達など「タンパク質合成の時空間的制御」に関連する生命現象の解明につながることが期待されるとしている。
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