産総研,セシウム原子の共鳴で電磁波強度を測定

産業技術総合研究所(産総研)は,セシウム原子の共鳴現象を利用して電磁波の強度を測定する技術を開発した(ニュースリリース)。

セシウム原子は9.2 GHzの周波数の電磁波を受けると,電磁波に共鳴する2つのエネルギー状態の間で周期的に遷移を繰り返す。この遷移の繰り返しはラビ振動と呼ばれ,その周波数は受けた電磁波の強度に比例する。

この現象を利用すると,アンテナを使わないでも,電磁波の強度をラビ振動の周波数から求めることができる。産総研では,セシウムガスをガラスセルに封入し,電磁波によって生じるセシウム原子のラビ振動を,レーザーで高精度に測定する,新たな電磁波強度の計測技術を開発した。

具体的には,電磁波を受けてラビ振動するセシウム原子にレーザーを当て,その透過光の変調成分として現れるラビ周波数を検出する。このラビ周波数から電磁波強度を算出する。

今回開発した技術では,セシウムガスを封入するガラスセルを小型にできるため,測定する電磁波の波長以下の1cm程度の局所的な強度測定ができ,空間分解能の高い電磁波強度計測が可能となる。これは,通常のアンテナによる計測では実現が困難であった。また,レーザーでラビ振動を測定するため,離れた場所からワイヤレスで測定できる。

今回開発した技術により電磁波の強度分布を正確に測定することで,電磁環境測定(EMC試験)の高度化や空間電磁界の可視化など,新たな応用が期待されるという。また,今後さらに普及するであろう電気自動車や通信機器などの安全への貢献が期待されるとしている。

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