京都大学,金沢大学,神戸大学らの研究グループは,固液界面における溶媒和構造測定のための分析理論(変換理論)を提案し,理論の検証を行なった(ニュースリリース)。
固液界面における液体の構造(溶媒和構造)は,固体と液体の親和性を測る指標になるだけでなく,液中における結晶化やバイオミネラリゼーション,触媒反応などのメカニズムを分子レベルで理解するための重要な情報となる。また,化粧品やガラス材料など工業製品の開発における試作品評価においても溶媒和構造は重要な情報となりえる。
これまでの構造解析技術の発展により,分子構造や結晶構造などの測定は比較的容易なものとなっているが,固液界面における溶媒和構造の測定となると,測定は大変難しい。
溶媒和構造を測定する手法としてX線反射率測定があるが,この測定を行なうには数cmまたは数mm四方で原子(分子)レベルでフラットな試料表面を用意する必要がある。しかしながら,そのような表面は有機分子結晶や生体膜,ガラス表面上では用意できない。
そこで研究グループは,液中AFMに注目した。液中AFMは数cmまたは数mm四方で原子(分子)レベルでフラットな試料表面を用意する必要がない。
しかも既に,無機結晶だけでなく有機分子結晶や疑似生体膜上においてフォースカーブの測定がされている。よって,液中AFMで測定されるフォースカーブを溶媒和構造に変換する理論があれば,液中AFMによって様々な表面上の溶媒和構造の測定ができるようになる。
研究グループは,液体の統計力学と物理数学を応用し,変換理論を作成した。また,変換理論の計算機内での検証と実験への適用などを行なった。
この研究によって変換理論の基礎ができたとしている。しかし,現在の変換理論はまだ初歩的なものなので,今後はそれの精度と実用性の向上が行われる予定。
研究では,変換理論の実験への適用(第一段階)としてマイカという鉱物(無機結晶)上の一次元の溶媒和構造(具体的には水和構造)を求めたが,今後は三次元の溶媒和構造や,有機分子結晶や生体膜,ガラス表面上の溶媒和構造の取得に挑戦する予定。この研究によって,構造解析技術のフロンティアが開拓されるとしている。
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