理化学研究所(理研)は,磁性体(磁石)に内在する「電子スピンの流れ(スピン流)」が,磁性体に分布する磁気モーメント間に重要な相互作用を引き起こしていることを理論的に明らかにした(ニュースリリース)。
多くの場合,物質中の流れは,乾電池につないだ銅線の中を流れる電流のように,電圧などの外力によって生じている。しかし,何も外力を与えられなくても,物質自身の性質によって,物質中に自発的かつ,恒常的に流れが発生することがある。
物質界面や特殊な結晶構造をもった物質など,空間反転対称性の破れている場合には,そのような自発的なスピンの流れが存在しており,「平衡スピン流」と呼ばれている。これまで,平衡スピン流は概念的には知られていたが,物理的に意味のある計測可能な量とはみなされていなかった。
今回,研究グループは平衡スピン流と,「ジャロシンスキー守谷相互作用」と呼ばれる磁気モーメント間の相互作用の関係に着目した。電子は媒質として,磁気モーメント間の相互作用を媒介する。
この媒質が平衡スピン流として集団的に流れているとき,平衡スピン流による「ドップラー効果」がジャロシンスキー守谷相互作用を引き起こしていることが,計算により分かった。また,定量的には,“平衡スピン流の大きさはジャロシンスキー守谷相互作用の大きさと等しい”ことが明らかになった。
さらに研究チームは,ジャロシンスキー守谷相互作用を持つ代表的な金属磁性体の一群の物質に対して数値計算を行ない,平衡スピン流とジャロシンスキー守谷相互作用の大きさが等しいという関係が,物質に対して確かに成り立つことを実証した。得られた数値結果は,実験データをよく再現していたという。
スピントロニクスの分野では,外力によって流されるスピン流のみが注目されてきた。今回の研究で平衡スピン流という,あまり研究されてこなかったスピン流が,はっきりとした役割を持つことが明らかになり,この分野の研究に新しい「流れ」が生まれるとしている。
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