横浜国立大学と独Stuttgart大学のグループは,量子通信に用いる光子を量子メモリーとなるダイヤモンド中に量子テレポーテーションの原理で転写して長時間保存する新原理の実証に,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
量子通信は,強固な安全性を保証する暗号通信技術だが,光子が光ファイバー中を伝わる距離がおよそ100kmに制約されているため都市間ネットワークを構築する決定的な方法が見つかっていない。この制約を克服するためには,量子テレポーテーションと呼ぶ原理で光子が一度では届かない遠方に量子状態を再生する量子中継が不可欠となる。
このためには,光子が届く数10km毎に配置した量子ノード間に量子もつれを生成し,量子ノード内で量子もつれを検出する必要がある。従来の中継方式は,直接光子が届く区間毎に量子通信を行ない,これを接続する中継ノードではいわゆる古典的な中継を行なうものだった。しかしながら,この方式では各区間での絶対安全性は確保できるものの,中継ノードでの絶対安全性は保証できなっかった。
今回,研究グループが考案した手法は,上の手法とは全く異なる完全に量子的な中継方式。中継ノードは量子メモリーとなるダイヤモンド中の核子を持ち,光子の量子状態は電子を介して核子に量子テレポーテーション転写される。このような量子テレポーテーション転写を各区間で行ない,古典測定ではなく量子測定を行なうことで,盗聴者には絶対に情報漏えいのない量子中継が可能となる。
より正確には,この成果は第三世代量子通信を可能とする。第二世代は200km程度と比較的短距離であるため一回だけの量子中継で十分であり,確率的量子中継という量子メモリーを必要としない中継方式で実現できる。これに対し,1000km程度と長距離になると,決定論的量子中継という量子メモリーが必要な方式が要求され,これまでは実現の目途が立っていなかった。
今回の成果で示した量子テレポーテーション転写では,転写が決定論的に行なわれることから,この第三世代量子中継の実現に一歩迫ったと言える。仮に光子送信レートを1Gb/sとし中継区間を50kmとすると,1000kmの量子通信路一回線で100Mb/sの情報が送信できる。
量子テレポーテーションにはあらかじめ原子内に量子もつれを用意する必要がありる。これには物質に内在する量子もつれを利用する。原子を構成する電子と核子のスピンは超微細相互作用という量子もつれを導く力でつながっている。
研究グループは,マイクロ波やラジオ波でこの量子もつれを純粋化することから始め,次にこの量子もつれを種とし,先の論文で実証した吸収による量子もつれ検出の応用で,光子の量子状態を核子に転写することに成功した。
今回開発した量子テレポーテーション転写の量子回路は,①電子と核子の初期化,②電子と核子の量子もつれ生成、③光子と電子の量子もつれ検出の3つの回路ブロックに分けることができる。一見不必要に見える電子を介して光子から核子に量子状態を転写することで,従来は確率的であった転写が決定論的となる。
これが決定論的中継を必要とする第三世代量子中継の要素技術となる。入射する光子の偏光位相を変 えることで転写の忠実度を調べたところ,実験により光子から核子への量子テレポーテーション転写の忠実度が90%以上であることを実証した。
先の説明では量子テレポーテーションの準備として量子もつれが必要だったが,これにはやはり物質に内在する量子もつれが利用できる。原子を構成する電子と核子のスピンは超微細相互作用という量子もつれを導く力でつながっている。
この量子もつれを種とし,発光による量子もつれ生成と吸収による量子もつれ検出で量子テレポーテーションを繰り返すことで,量子もつれの距離を延ばすことができる。研究グループはこれにより,物質本来の量子もつれを起源とした量子通信ネットワークの実現を目指して研究を進めるとしている。
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