東大ら,電子1個のスピン情報の長距離伝送・検出に成功

東京大学と仏ニール研究所の研究グループは,電子のもつスピンと呼ばれる情報を保ったままひとつの電子だけを,周囲の電子から隔離して長距離伝送して検出することに初めて成功した(ニュースリリース)。

現代のエレクトロニクスは,電荷の流れである電流に加えてスピンを利用するスピントロニ クス技術の開発によって,飛躍的な発展を遂げてきた。最近では,電子のスピンを電子1個単位で量子力学的に制御することによる量子情報処理の研究も注目を集めている。

量子情報処理においては,この単一電子スピンを制御するために,電子を量子ドットに閉じ込めて周囲の電子から隔離する方法がよく用いられる。このような仕組みを集積するためには,単一スピンの情報を遠く離れた量子ドット間で伝送する技術が不可欠だが,その開発は技術的な難しさから進んでいなかった。

研究グループは,2011年に,結晶表面を伝わる音の波(表面弾性波)を利用して単一電子を周囲から隔離したまま離れた量子ドット間で長距離移送することに成功していたが,単一電子移送の際のスピンの情報までは検証できていなかった。

研究では,移送の際のスピンの反転を抑制できるような単一電子移送方法を新たに開発した。そして,量子ドット間を伝送する前後の単一電子スピンを測定し,スピンの情報を4㎛離れた量子ドット間で単一電子を移送できることを初めて示した。さらに,電子の移送後もスピンの情報が65%程度残っていることを確認した。

これにより,単一スピンの伝送と量子情報操作の技術とを融合させた“単一電子スピントロニクス”への道を初めて拓いたとしている。単一電子スピントロニクスでは,暗号解読や最適化問題などを桁違いの速さで解くことができる量子計算と,情報の散逸によるエネルギー損失を伴わないスピン情報伝送の実装が可能になる。

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