日本電信電話(NTT)とフジクラ,北海道大学は,6種類の光(モード)を同時に伝搬可能な光の通り道(コア)を19個配置し,1本に114(=6モード×19コア)の情報経路(チャネル)を多重化した世界最高密度の光ファイバーを,250μm以下という実用的な細さで実現した(ニュースリリース)。
これまでマルチコアファイバーの研究では,コア数を増やすだけ,もしくはモード数を増やすだけでは,光ファイバー1本で50を超える情報経路(チャネル)を実現することは現実的に困難だった。そこで,研究グループは,コア多重(マルチコア)とモード多重(マルチモード)のベストミックスにより,実用的に利用可能な光ファイバー1本で100以上のチャネルを多重可能にする研究開発を進めてきた。
NTTではこれまでに,光ファイバーの直径を250μm以下とすることにより,既存の陸上光伝送路と同等の半径15~30mmの曲がりを付与しても,20年以上に渡り使用可能な光ファイバーが実現できるという知見を得ていた。
そして,NTTと北大は,250μm以下の光ファイバー直径で 100以上のチャネルを多重するため,3および6種類の光(モード)を伝搬可能な光の通り道(コア)の屈折率分布を最適化し,その最適化されたコア構造を用い,コア間の光信号の干渉を十分に抑圧可能な様々なコア配置について検討を行なった。
その結果,6モードを導波可能なコアを蜂の巣状に19個配列することで,250μm未満の光ファイバー直径に,世界最大の114チャネル(=6モード×19コア)を多重できることを明らかにした。これは,従来の光ファイバー(1種類モードを伝搬可能な1つのコアを有する)の60 倍以上に相当する世界最高の密度となる。
この設計指針に基づき,長さ8.85kmの光ファイバーをフジクラにて作製し,NTTにてその特性を評価した。全114チャネルの波長1550 nnmにおける伝送損失は0.24dB/km未満であり,これまでに報告されている6モードを用いたマルチコア光ファイバーの中でも最小の伝送損失を実現した。
また,各チャネル間における伝送損失の偏差は0.03dB/km以下と,極めて均一性の高い高密度光ファイバーを実現した。更に,複数のモードを同時に用いた光伝送で重要になるモード間伝搬速度差は0.33ns/km未満で,これまでに報告されている6モードを用いたマルチコア光ファイバーの中でも最小の速度差を実現した。これは,19個のコアの屈折率分布が高精度に制御されていることを表すもの。
NTTは,作製した光ファイバーの,超大容量伝送への適用性を確認するため,最新のQAMデジタルコヒーレント伝送技術と,入射端で114のチャネルに異なる光信号を合波し,出射端で114のチャネルからの光を分波する光ファイバー型のFan-In・Fan-Outデバイスを用い,各チャネルの伝送品質を評価した。その結果,114全てのチャネルについて伝送限界を上回る良好な大容量伝送が行なえることを確認した。
今回の研究成果は,光ファイバ内ーの空間(モードとコア)を有効に活用することにより,1本で現在の100倍の伝送容量を有し,数十年の単位で安心して利用できる光ファイバーの実現性を示したもので,限られた空間における伝送容量を飛躍的に増大することを可能にする。
研究グループでは今後,この光ファイバーの2020年代における実用化を目指すとしている。
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